人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

プレステVR用ゲームで、触感のあるスーツを体験する

 ゲームの中の世界は、あたかも現実のものであるかのような体験を再現する。たとえば、2001年に発売されたプレイステーション2、ドリームキャスト用ゲームソフトRez。スイスの電子音楽フェスやアフリカの音楽といった自身の経験をもとに、実際の体験として感情や気持ちよさを設計しようとしたと、プロデューサーでゲームクリエイター水口哲也さんは言う。Rezでは、実際の音楽体験がゲーム世界の中で再現された。

 そのRezプレイステーションVR向けソフト「Rez Infinite」として復活する。昨年12月にサンフランシスコで開催されたプレイステーションのイベントで発表された。

 そのイベント用に開発されたのが、ゲーム体験に合わせた触感を得られる、「シナスタジア(共感覚)・スーツ」だ。

 もともと水口さんがRezで目指したのは、シナスタジア(共感覚)にもとづく表現を生み出したカンディンスキーの絵だったという。共感覚とは、あるひとつの刺激が、その本来の感覚だけでなく別の感覚も同時に生じさせる現象を指す。例えば、音を聴いて色を感じるといったものだ。

 共感覚はすべての人が持っているわけではないが、シナスタジア・スーツは誰でもそのような感覚を体験できるようにつくられた。

 スーツの中に26個の振動子が入っている。また振動子が入っている部分にうはLEDが着いており、音楽や振動と連動して光る。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とこのスーツを装着することで、共感覚を体現する日のようにしてゲームができるというわけだ。

 このスーツの触覚パーツは慶應大准教授の南澤さんたちがつくった。南澤さんたちは、TECHTILEの活動などこれまでさまざまな触覚デバイスを開発してきている。

 南澤さんの恩師はVR研究第一人者で東大名誉教授の舘先生。VRの正統派だ。VR元年と言われる昨今、ビジネスや市場にVRが浸透しつつあり、研究者としてはVRの次はどこへ行くのかが一番の関心と言う。「HMDをかぶってコンピュータの世界に没入する、そこはではできるようになった。その先は?」。

 最近、情報系の研究者が口をそろえて言うのが「身体性」というキーワードだ。情報技術の進歩によって私たちは、現実の物理世界(アトム)からコンピュータの中の情報世界(ビット)へと入り込んできたが、ここにきて再び目の前の現実世界に存在する私たちの身体の重要性が再確認されてきている。とはいえ、情報技術以前の不便な世界に私たちは戻れない。そこでテクノロジーの進歩は、コンピュータから飛び出して現実世界に入ってくる情報技術を指向している。

 南澤さんはもともとテレイグジスタンスや触覚提示デバイスの研究者だ。最近では、それが社会の中でどのように使われるのか、身体性を伴うコミュニケーションへの展開をしている。

 なお、シナスタジア・スーツは2月29日から3月21日まで六本木で開催されるMedia Ambition Tokyoで体験ができる。