人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

人工知能研究で文科省、経産省、総務省の連携は同床異夢か

 文科省経産省総務省の三省が連携して人工知能研究を進めるという。もともと政府の日本再興戦略などで人工知能研究の推進をうたっているので、当然といえば当然だ。だが、それぞれが見ている夢は異なるのではないだろうか。

 先日、経産省系ファンディング機関のNEDO経産省系研究機関の産総研の主催、三省の後援で「次世代人工知能国際シンポジウム」と題した講演会があった。三省がそれぞれの取り組みや次年度予算を説明したが、その内容も見ているところも、当然のことながら全くバラバラだ(もちろん当たり前のことだが)。

 経産省は省の役割としてそもそも産業振興、実用化が目的だ。産総研人工知能研究センターを中核において、「いざ鎌倉と、人工知能研究者が集結するセンターをつくった」(同省担当者)と言う。

 総務省では、もともとあるNICTユニバーサルコミュニケーション研究所と数年前に阪大内に設置したNICT脳情報通信融合研究センターを中核とする。研究自体は脳機能の解明、ビッグデータ解析といった従来の項目と変わらない。

 文科省はもともと基礎研究と人材育成がミッションにある。次年度予算要求では理研に新設するAIPセンターを目玉としたが、「文科省の科学技術政策で情報系が予算要求の筆頭に来るのは記憶に無い」と同省担当者は力を入れていることを強調する。次年度予算54億円は主にこのAIPセンターのほか、大学や研究機関へのファンディング事業に投じる。

 そもそも何を持って人工知能研究というのから同床異夢だ。経産省は実用指向だが、総務省では超基礎研究と言える脳研究も含むという。

 この日のシンポジウムの来賓挨拶では、高等研所長で京大元総長の長尾先生は、

「日本でロボット研究は動く部分では世界に冠たる業績だったが、ロボットの頭脳が非常に弱い。これからの日本の人工知能研究は、この頭脳の部分を集中的に研究しないとならないのではないか。センサーの認識、それを概念化して言語化していく。もうひとつは人間の感情。それをきちっと把握してロボットの頭脳に入れていく。そういう時代に差し掛かっている」

 とした上で、三省連携に触れ、

「これからの日本の人工知能研究は三省が連携して本格的にやるという時期になった。日本中の人工知能研究関係の人が結集して、何年か先に世界に冠たるロボット研究人工知能研究の日本、というふうにしていってほしい」

 と締めくくった。長尾先生はアカデミアの研究者なので、人工知能やロボットの実用よりも、基礎研究の視点で話しているように感じた。

 もっとも、もともとの政府の日本再興戦略などの予算要求の基本方針に立ち戻れば、「人工知能」というバズワードをあえてつかってはいるが、三省ともに情報技術全般、特にインテリジェントな情報技術を指しているのだろう。そして現政権のご多分にもれず、見ている先は産業活性化による経済貢献だ。

 インテリジェントな情報技術と言ってもかなり幅広い分野にまたがる。それぞれのステークホルダーもいる。「人工知能研究を再構築する」と三省の担当者は言うが、そもそも、国内研究者は90年台以降のいわゆる「冬の時代」には人工知能研究と銘打った大々的な研究開発はおこなわれてこなかった。これまで「脳科学」と言って予算をとってきた研究者が「人工知能」と言って予算をとってくるというような、看板の掛け替えだけで終わらない根本的な連携は難しいかもしれない。