科技メモ

テクノロジーと人間について、取材の備忘録とか思ったこととか

安心して「炎上」できる場が、テクノロジーを進化させる

「議論を呼びそうな研究を安心して見せて、いろんな人のフィードバックをもらって、社会に受け入れられるのかどうなのか、どういう形なら受け入れられるのか、次にどういうふうに研究を進めていけるのか、議論して考えられる場があるといいよね」

 と、インターフェイス研究者の鳴海さんは言う。

 人と機械の境界を研究してつくるのが、ヒューマンインタフェース研究だ。人と機械のことと同時に、社会に何が求められているのか、何が問題になっているのか、まず問いを立てるところが重要になる。

 そこで、東大名誉教授の原島先生は「オープンスパイラルモデル」という研究のやり方を提案しているという。従来の学術研究では、まず研究をして、その成果を学会や論文誌に発表をして、その後産業化して社会に出て行くというリニアに進むものだった。一方で、原島先生の言うオープンスパイラルモデルでは、研究をいきなり社会に見せる。見せると、一般の人達から反応があって、こういう方向に研究を伸ばしていこうと適宜修正をして研究開発を新し好更新しながら進めていく。

「そのためには、研究を安心して見せられる場と仕組みが必要だし、見せたことが研究者の業績になると、研究者は嬉しい。一般の人に見せても、叩かれて終わり、だと嬉しくない」

 と鳴海さん。

 鳴海さんは議論を呼びそうな研究が多い。例えば、食事を共有するSNSで、「いいね」のようなほかの人からの評価を恣意的に入れ替えてフィードバックすると、本人の食行動が変化することがわかった。少し前にFacebookがタイムラインを恣意的に操作してユーザの行動変容を調べた結果を論文誌に発表して議論を呼んだが、そんなようなものだ。これは以前取材して記事にした

 ただ、これもいいか悪いかは、やってみないとわからない。鳴海さんたちの食行動の変化では、本人が気付かないうちに、ヘルシーな食行動をとるようになったという。一方、たとえ良い行動変容だとしても、本人が気づかないうちにいわば「だます」ことをしてもよいのかどうかという倫理的な問題もある。

 実際、件の記事のあと、鳴海さんのこの研究は知り合いの社会学の研究者たちの間でSNS上で議論になっていた。

 だが、議論になること、議論ができること、またその議論がオープンであることは良いことだ。そのプロセスも含めて、研究にフィードバックしていくことで、社会にとってもよい循環になる。なぜなら、その研究は、いずれ社会実装して人の役にたつために行われるのだから。

 意図せずして、議論を呼び「炎上」し、研究者自身が変容し、新しい物事が始まり、結果的に研究者にとっても社会にとってもよい循環に入った事例がある。それが、人工知能学会誌の「表紙問題」だ。