人間とテクノロジー

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変態で変人の研究者たちが愛おしすぎるマンガ「決してマネしないでください。」がめちゃくちゃおもしろかった

 Unityの簗瀬さんが「決してマネしないでください。」(蛇蔵、講談社)をFBで薦めていてKindleでポチったら1ページ目からツボにはまり、全3巻一気読みして、明日朝早いのに、感想文を書かずにはいられない深夜3時。とにかく読んでいると、研究者が大好きだ―と彼らに敬意を払わずに入られない、胸熱な気持ちになる。研究者好きです。

 物語の舞台は、東工大を連想させる「共学なのに男子校」な工科医大の実験サークル。「スタントマンはなぜ炎にまかれても平気なのか?」といった身近な疑問に答える実験や、過去の偉大な科学者のエピソードとともに、女性にほとんど接したことがない「理系男子」の恋が少しずつ展開する。

 一貫して描かれるのが、研究者の変人ぷり。そしてそれに対する筆者の愛情あふれる描き方。数ページごとに爆笑しながら読んだ。登場人物だけでなく、ラボアジエ、キュリー夫妻、ニュートンシュレディンガーアインシュタインチューリングといった過去の偉大な科学者、研究者たちの人間味あふれるエピソードも描かれる中で、変人だけれど、愛すべき研究者像が浮かび上がってくる。変態だけど。

 登場人物も魅力的だ。理学部や工学部にいるいる、こういう人たち。サークル顧問で、共用スパコンの待ち時間が長いと自分でスパコンを作ってしまう理論物理学の高科先生、高科研究室所属で「好きなものは素数」の掛田君、工学部のメカオタクの有栖君と留学生のテレス君、絵画を見れば描かれている人の外反母趾に目が行く医学部の白石先生、人目を避けて気ぐるみを着ている理学部のゾンビちゃん。それに掛田君の「マドンナ」、飯島さん。

 1巻の1コマ目で、掛田君は学食のおばさん(というかお姉さん)飯島さんに「僕と貴女の収束性と総和可能性をiで解析しませんか?」と一世一代の告白をし、「は?」の一言で撃沈する。科学や研究に全く縁もなく興味もなかった飯島さんだが、それから実験サークルによく遊びに来て、掛田君たちと実験をしたり、高科先生から偉大な過去の科学者や発明家の話を聞いたりしていく。

 彼らの会話の中から、読者もまた普通の人である飯島さんと同じように、科学者の変態の生態と偉大な功績を知っていく。科学の話がとてもわかりやすく描かれている。これを読んで、量子力学と一般対称性理論からの大統一理論の流れがやっとわかったよ。

 とにかく読むと、細かいところがいちいちツボにはまる。例えば冒頭から続く場面では、撃沈した掛田くんにテレス君(工学部・彼女なし)が「星の数ほど女性はいます」と言うと「星は銀河系だけで2000億」と掛田君。「心が折れた」と言う掛田君に「もっと折れ。折れば折るほど人としての厚みが増す」と有栖君(工学部・彼女なし)、「新聞紙でも42回折れば厚みが月まで届きます。71回折れば25光年先のベガまで届くんですよ」とテレス君。落ち込む掛田君に高科先生(理学部・独身)は「夢を見るのが科学者の仕事でしょう!できないよりできるを証明するほうがずっと難しい。様々な方法で何度でも実験しなさい。諦めるのはそれからだよ」と説く。

 個人的にはメカオタクの有栖君が好きだ。なんでも作る。3Dプリンタを作る3Dプリンタとか塀を乗り越えるための自転車型昇降機とか、匂いを感知して人を追跡するドローンとか。優秀な有栖君はお笑いロボコンのチーム組みでは争奪戦だが、他のチームにもアドバイスをする面倒見がよかったり、恋に迷走する掛田君の良き理解者だったり、人間味にあふれている。工学部にいそう、こういう人。

 私が7年間(留年1年含む)学生時代を過ごした獣医学部は、女性はそこそこいたが、工学部や理学部とはまた違った変態と変人とオタクの世界だった。今振り返ればだけど。

 通学5分、三食は学校で食べるので一日のうち起きてから寝るまで、だいたい週末も研究室にいた。日常会話も専門用語だらけになり、焼き肉を食べに行けば部位を当て、風邪をひけばウイルスや細菌の話になる(そもそも研究室や学部の人としか接しない生活)。何かを知りたいと追求する探究心やそれゆえの専門性は、社会一般から見たらへんてこな世界だろう。

 自分は研究の道には進まなかったが同級生の4分の1が博士課程に進学する環境だったので研究者を常に意識はしていた。社会人になって図らずも、研究者を取材するようになって早10年近く経つ。研究者―何かを問い続けて、つくりつづける人たち―が好きで、尊敬してやまない。