人間とテクノロジー

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政府はITの研究開発にいくら投じているのか?

 Googleが買収したDeep Mindの人工知能「Alpha Go(アルファ碁)」が、韓国の世界トップレベ棋士のイ・セドルに3連勝と勝ち越した。

 一方、国内を振り返れば、ITの研究開発も社会実装も遅れを取っている。そこで政府は、日本再興戦略、科学技術イノベーション総合戦略、第5期科学技術基本計画などで人工知能などインテリジェントなITの推進をうたい、科学技術政策は、ITの研究開発へのかじを切ったとしている。

 では、政府はこれまでIT研究開発にどれだけ予算を投じてきたのだろうか?昨日の情報処理学会全国大会での、文科省研究振興局参事官付専門官、栗原潔氏の予算に関する講演を元にメモ。(この講演はニコ動で見られる

 まず、政府の科学技術予算は年間約3.6兆円でここ数年ほぼ横ばいだ。科技予算は文科省経産省厚労省環境省防衛省のうち研究開発に関連するものを指す。そのうち、情報通信分野は2014年度で1245億円。2006年度の1726億円から毎年漸減している。

図は総合科学技術・イノベーション会議の資料から。

 また栗原氏によると、この同じ時期の情報通信分野への研究開発投資は、政府だけでなく民間も減っているという。

 一方、情報通信分野の研究開発の成果を見ると、国際競争力は著しく低下している。研究開発の成果は、一般に論文数と注目度の高い論文数で評価される。

 図は、文科省の研究機関NISTEPが昨年8月にまとめた科学技術のベンチマーキング2015から。日本の論文数(すべて、注目度の高い論文数)の世界ランキングの変動を示している。薄い黄色が2001〜2003年、ピンク色が2011〜2013年だ。ほぼすべての分野で低下しているが、中でも顕著に低下しているのが、計算機科学・数学の分野だ(NISTEPの分類では計算機科学・数学としているものが情報通信分野に相当する)。ざっくりと、計算機科学・数学の分野の研究は、この10年間で日本は世界で8位から20位に転落している。

 なお、文科省JSTの試算によると、人工知能などのIT分野への国内も民間投資は2014年で約3047億円。政府予算85〜95億円(CSTIの情報通信分類と異なり、科研費などは含まず、NICTJST、AIST、NEDOのIT分野の予算を集計している)と合わせると、日本全体で3100億円程度になる。

 一方で、米国はGoogleが1兆円を投じているのは有名だが、民間で合計約5兆5900億円。政府投資は300億円以上という。(2013〜2015年のデータ)

 政府は次年度のIT分野の研究開発予算を文科省経産省総務省と合わせて約100億円としているが、竹槍で鉄砲と戦うようなものだろう。

 ただ、政府がこれまでITの研究開発に予算を投じてこなかったかというとそうではない。特にいわゆる「国プロ(国家プロジェクト)」では大型予算を投じて、国家レベルで研究開発を推進してきた。

 図は、文科省情報科学委員会で朝日新聞社馬場氏が提出した資料から。

 情報技術分野が注目されるようになった80年台以降の主な国プロがまとまっている。有名なものでは、前回の人工知能ブームだった1982〜1994年年度に569億円投じた「第5世代コンピュータ」、1992〜2001年度に480億円投じた「リアルワールド・コンピューティング・プロジェクト」があるが、いずれも大きな成果を残せずに、結果的に予算のばらまきで終わったと言う声もある。最近では、Googleに対抗するとして「日の丸検索エンジン開発」ともうたわれた情報大航海プロジェクトには2007年度から3年間で約150億円が投じられた。

 ちなみに情報大航海プロジェクトは当時よく取材していたが、始まった当初から「情報大後悔プロジェクト」と揶揄されていた。そういえば、プロジェクト終了後、経産省の担当課長はプロジェクト事務局を受託していた某コンサルに天下りしたっけ。懐かしい。

 過去の国プロへの予算投下とその結果を見るに、投資額が多ければいいというわけでもないのも見てとてる。

 主に経産省系の国プロでは、かつては半導体太陽光発電など、産業振興に大きく寄与した例もある。国プロのような大型予算集中投下そのものに問題があるというわけでもないだろう。(もっとも昨今の緊縮財政ではかつてのような研究開発の大型国プロは非現実的だが)

 だが、かつてうまくいったのはいずれも多額の設備投資が必要なハードウェア分野で、開発が直接産業に結びつくような分野だ。

 一方、ITではソフトウェアやアプリケーション開発が重要になるので設備投資よりも、人材が要になる。人材育成とその確保は時間がかかる上、継続的な投資が必要だ。ただ、短期間で成果を求められる政府予算のあり方では進め方が難しいのではないだろうか。ソフトや人材に対する、国だけでなく産業界の認識や理解の不足が、IT分野の研究開発と社会実装がうまく進まない一因なのではないかとここのところ思うんだけれど、どうなんだろうか。