人間とテクノロジー

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「パナマ文書」を取材し、報道した意義とデータジャーナリズム

 先日、早稲田大学で開催された「『パナマ文書』はこうして取材・報道した」というイベントに行ってきた。パナマ文書を分析した非営利組織のICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)で日本を担当した在米フリー記者のシッラ・アレッチさん、ICIJと協力して取材、報道に参加をした朝日新聞編集委員の奥山俊宏さん、共同通信特別報道室記者の澤康臣さんが登壇した。新聞記者と週刊誌記者と報道記者時代が長かったので、報道側の立場から個人的に思ったこと。

 パナマ文書は、世界80ヶ国、107社の報道機関に所属する約400人の記者が分析に参加した。ICIJでパナマ文書の分析や日本の報道機関との連携を行ったシッラさんが、パナマ文書プロジェクトの意義として述べたひとことが印象的だった。

「いつも競争をしているメディアが、国境やニュースルームの境界を超えて協調した。これから何かを変えていくのではないか」

 報道機関に所属している記者は、日々「抜いた、抜かれた」の競争に晒されている。(ネットでニュースが速報される時代にそれが良いのか悪いのかは別として、オールドメディアでは、他社よりも少しでも早く報道するというのがニュースを取材して報道する記者には染み付いている)

 だから、通常は他社の記者同士が協調するのは難しい。記者クラブで同じ場にいても、今何を取材していて何を書こうとしているのかは、他社の記者には絶対に漏らさないし、そもそも、社内の人間にも漏らさない。

 ところが、パナマ文書の報道ではそうではなかった。パナマ文書の大量のデータを共有した。もっとも、そこから何を見つけて裏付け取材をして何を報道するかは各社の記者が独自で進める。

 パナマ文書の日本での取材、報道のキーパーソンとなったのがシッラさんだ。質問で、「なぜ朝日と共同を選んだのか?」と聞かれたときに、シッラさんは「共同という会社ではなく、澤さん。澤さんならやってくれると思った」という話をしていた。奥山さんは2008年からアメリカの非営利の報道機関の取材をしていて人脈を築き、その縁で2012年には朝日とICIJの提携にこぎつけた。

 一般に、記者はひとりひとりの人間を見て取材をしている。報じるのはファクトだけれど、取材をするのはひとりの人間だからだ。同様に、記者同士も人を見る。会社や部署ではなく。

 ところで、記者にとってパナマ文書は、大量のデータからニュースを見つけて裏付け取材をして報道をする、という、いわばデータジャーナリズムの重要性を改めて認識させる「事件」だった。

「2.6テラバイトのデータを記者が全部解析できる?これまでだったら、リーク情報を記者がリーク元から受け取って、プリントアウトして読んで重要なところをピックアップして裏付け取材をして・・・。でも、2.6テラバイトのデータをプリントアウトするなんて不可能」

 新聞記者時代に記者クラブで一緒だった、知り合いの記者がそう言った。

 彼は今、データ分析の手法を勉強している。彼は言う。「記者、エンジニア、デザイナー。この3つのうちの2つを1人でできるようにならないとならない」。

 データを適切に扱い、そこからニュースを見つけ、裏付け取材をとり、報道をする記者。新聞も出版も、オールドメディアの記者はそこが弱い。勉強をして、人脈をつくって、きちんと考えないといけない。勉強会、やろうかなあ。