人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

ネクストVRを探しにVR学会へ行ってきた

14〜16日につくばで開催された日本バーチャルリアリティ学会(VR学会)へ行ってきた。

世間はVRブームで、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の発売が相次いでいることもあり、今年はVR普及元年とも言われている。今言われているVRは、HMDを付けて体験するものが多い。

現在のHMDはゲームをとっかかりに普及をすると見られている。VRコンテンツの多くはゲームだ。ファミ通ゲーム白書2016によると昨年の国内ゲーム市場は1兆3591億円と過去最高を記録したということなので、少子高齢化で多くの産業が縮小傾向にある中、まだ成長が期待される産業なのだろう。もっとも伸びているのは、オンラインプラットフォームで、家庭用ゲーム(ハード・ソフト)はともに減少傾向にある。HMDが普及することで、オンラインプラットフォーム、家庭用ゲーム(ハード・ソフト)共にVRゲームに代替されることは有り得そうだ。

だが、現状のHMDをベースとしたVRは、まだまだHMDの制約が大きいため、コンシューマ向けには1人1台という普及までは至らないだろう。

とはいえ、コミュニケーションの媒体としてのVRは、紙や放送(TV、ラジオ)、ウェブ(テキスト、画像、動画)といった現状普及しているメディアと比べてリッチな体験を提供できるため、普及の可能性は大きい。

HMDをベースとした現状から、VRはどのように変わっていくのだろうか。ネクストVRを知りたくて、VR学会へ行ってきた。

ちなみに、VR学会などのアカデミアのVRの研究の歴史を振り返れば、HMDの研究が盛んだったのは20年前の一次ブームのころで、その後部屋の壁がディスプレイになり、ディスプレイに囲まれた中で没入感を高めるCAVE型の研究が盛んになり、さらに、触覚などほかのモダリティを提示する研究が進められている。

VR学会は20周年で、20周年企画として若手研究者たちが20年後のVRを展望するパネル討論の企画があった。あいにくそのセッションの場には行けなかったが、あとから録音で聞いた。そこで鳴海さんが提示していた3つの問題が興味深かった。

ひとつは、VRは非リア充を救えるのか?という問題。

PSVRのコミュニケーションゲーム「サマーレッスン」では、女子高生に家庭教師をする体験ができる。ただ、体験した人の経験によって、感じることが違うのだという。例えば、ホストがこのゲームを体験したときには、女子高生がゲームの中で近づいてきた時に、実際には感じないはずの吐息を感じたという。一方、東大生は吐息を感じなかった。これを見た東大教授は、「東大生は経験がないから感じないのではないか」と解説をした。

つまり、VRでの体験は現実での経験や記憶に大きく左右される。ということは、非リアなど現実での経験が少ない人は、リア充のような体験をVRでできないのか?ということだ。

もうひとつが、VRには身体性は必要なのか?

高校生などの中には、VRと言うと、身体活動を伴わずに様々な体験ができるものだと考えている人もいるのだという。これは、「ソードアソードオンライイ」というアニメの影響ということだが、このアニメでは、脳活動を読み取ってVR世界で活動をする。つまりブレイン・マシン・インターフェースBMI)なのだが、これを究極のVRとしているのだという。

VR研究者は、身体性が感情や認知に関わるとして、身体性こそがVRの本質だと思っていたが、実はその考え方も世代によって異なるのかもしれないという。

最後に問題提起をしたのは技術倫理について。VR体験によって、人の行動や認知を変えることができるが、使い方に寄っては悪用もできる。社会にとって良い方向に使うためにはどうしたらいいのかという問いだった。

なお、VR学会は体験展示が多く、これらを体験するだけでも十分楽しめる。コンシューマ向けのHMDが増えてきたこともあり、HMDを使った展示も多かったが、興味深いのが、電気刺激と触覚をベースとしたVRだった。

大阪大学の研究で、塩水を飲んでいるときにストロー経由で電気刺激をすることで、味を濃く感じさせるというもの。

こちらは初日のテクニカルツアーで訪れた筑波大学エンパワーメントスタジオでのデモ体験。体育館のような大きな部屋の周囲4面と床の計5面がディスプレイになっている。両腕にマーカーがついた羽根を付けてはばたくと、リフトで持ち上げられ移動して鳥になったような体験ができるというもの。

VR学会では、国際学生対抗VRコンテンスト(IVRC)の予選を開催していて、そのデモもアイデアがたくさんでおもしろい。

自動車をVRプラットフォームとした研究はいくつかった。写真NGだったが、豊田中研の一人乗り電気自動車をVRプラットフォームとした技術展示は、すでにアーケードゲームにあってもおかしくない。

VRとは、現実のエッセンスだと言われる(「バーチャルリアリティ入門」舘すすむ著)。うまく知覚や認知をだますことで、リアリティを感じるのがVRだ。つまり、VR体験のコツは、自ら積極的に騙されに行くこと。

トーリーや文脈が明確だと騙されやすく、その分リッチなVR体験をできる。

このデモでは、右耳からジェリービーンズや牛乳、虫を入れると、頭の中を貫通して左耳から出てくるという、ありえない体験ができる。正面のディスプレイとヘッドフォンという視覚と聴覚の情報に加えて、ヘッドフォンに付けた筒を使ったストーリーだけで、錯覚を起こさせている。オペレーターの学生さんのガイダンスがストーリーをうまくつくってくれる。

学生さんたちのストーリーづくりがうまかったのがこのデモ。オリンピック閉会式の「安倍マリオ」のように、地球を貫通してブラジルに到達するというストーリーだ。なお、企画をしたのはオリンピックの前ということで偶然の一致だったそう。学生さんたちの力仕事と、みんなで声を合わせて中継をしてくれる演出が素晴らしく、本当に地球を貫通したかのような気分に、、、まあなる。

で、ネクストVRはなんなのか。想像できるのは、HMDはより簡易になり、触覚などほかのモダリティが提示されるようになり・・・というのがハード面の進化だろう。ただ、より人間の認知や行動に働きかけるような、特定のハードウェアに依存しない、当たり前の概念になっていくんじゃないのかなあ、という気がする。