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トランプの大統領の誕生と科学者の反応

ドナルド・トランプが米国の次期大統領となることが決まった。一般に、科学技術政策は、国の重要アジェンダとなることはあまりない(票田にならない)が大統領によって、科学研究に影響がでることもある。例えば米国では2001年にジョージ・ブッシュ大統領がES細胞への研究支援の打ち切りを決めたことがあった。

大統領がオバマからトランプに変わることでどう変わるのか。Natureに掲載された、Jeff Tollefson、Lauren Morello、Sara Reardonによるコラム「Donald Trump's US election win stuns scientists」では、移民政策に対する科学者の懸念と、気候変動への対応の変化の2点が主に挙げられている。

以下、全訳してみた。

ドナルド・トランプの大統領選勝利に科学者たちは衝撃を受ける
共和党は、研究へのはっきりしない影響で、ホワイトハウスとUS議会を一掃する

Jeff Tollefson, Lauren Morello& Sara Reardon
2016年11月9日

米国大統領に選出されたドナルド・トランプの支持者たちは、ニューヨークで祝賀を上げるだろう。共和党のビジネスマンでありTVスターのドナルド・トランプが次のアメリカ大統領になる。科学の話題は今年の劇的で激戦となった選挙戦のわずかな一部にすぎないとは言え、多くの研究者は11月8日の選挙でヒラリー・クリントン国務長官を破ったとして、恐怖と不信を示している。

「トランプは、我々が知る中で最初の反・科学の大統領になるだろう」と、ワシントンDCにある米国物理学会の広報ディレクターであるMichael Lubell氏は言う。「結果は、非常に非常に厳しい状況だ」

トランプは、気候変動の根拠としての科学を疑問視している。例えば、それは中国のデマだと示唆した。また、2020年以降の温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から米国を離脱させるとしている。

バイオ医学研究政策に関していくつか言及してきた一方で、昨年、トランプは米国国立衛生研究所(NIH)について「恐ろしい話」を聞いたと話した。彼はまた、NASAを「低軌道飛行のための物流代理店」として、米国の宇宙計画を商業ベースの宇宙産業の役割まで拡大すると述べている。

トランプの移民に対する強行な主張(イスラム教徒の米国入国の禁止、メキシコに壁を設けるといった)のために、研究支援者たちは、才能ある外国人研究者が米国内の研究機関で仕事をしたり学んだりすることを思いとどまらせてしまうのではないかと心配している。

「少なくとも、海外から米国に来ようと関心を持つ科学者を萎縮させると思います」と、メリーランド州ベセスダにある米国細胞生物協会の渉外・広報担当ディレクターのKevin Wilsonは言う。

一部の研究者は、すでに選挙をきっかけに、米国を離れることを考えている。「米国の大学で働いているカナダ人がカナダに戻るといったことを、我々はこれから目の当たりにするだろう」とジョージア州アトランタのエモリー大学で環境経済と政策を学ぶMurray Ruddはツイートした。

■数字ゲーム
トランプが選挙結果の展開を見ていたニューヨークで11月9日午前3時少し前、勝利に必要な270票を上回った。クリントンは、選挙当日までは世論調査でリードしていたが、女性、マイノリティ、大卒者の強い支持を得ていたとはいえ、トランプの予想外に好調な結果に打ち勝つことができなかった。

共和党はまた、下院と上院で議席を獲得し、議会の過半数を占めることとなった。トランプが彼の政策の優先順位と重要なポジションの候補者をプッシュするのは容易なことだ。例えば、NASAや米国海洋大気庁といった科学者組織のリーダー、また現在空席のある最高裁判所の判事もそこに含まれる。

「研究者が科学のために立ち上がることは非常に重要だ」とメリーランド州ベセスダの米国実験生物学会連合の法務部門のディレクターであるJennifer Zeitzerは言う。連邦政府資金による研究がいかにアメリカ人に利益をもたらすかをトランプ政権が理解をしていることを意味していると、Zeritzerは言う。

この選挙結果に対するソーシャルメディア上の多くの研究者の反応は、研究資金の削減が多くの懸念だ。「私は博士号取得のために、乳がんの研究をしています」とアイオワ大学の大学院生Sarah Hengelがツイートしている。「私の将来だけでなく、研究の将来が怖い」

「科学、研究、教育、そして地球の未来にとって脅威です」と、スタンフォード大学で電気化学と持続可能なエネルギーのための対話を研究しているポスドクであるMaria Escudero Escribanoはツイートしている。「私はヨーロッパに帰国すべき時だと思う」。

■気候変動に対する対応の不確実さ

最高裁判所の欠員は、オバマ大統領による気候変動に対する計画の主要なひとつの運命をトランプの手に任せることとなっている。裁判所は、既存の発電所からの二酸化炭素排出量を抑制するための規制を検討している。オバマは欠員を埋めるために、中立な候補者を指名しようとしているが、共和党はこれを防ごうとしている。だがトランプはすぐにそのポジションを埋められるだろう。彼の候補者は、まだ指名されていないが、気候変動に関する決定票を投じることができる。

彼が公約通りパリ協定から離脱するには、長い時間がかかる。法的には、彼は4年間そうすることができない。だが、トランプの選出によって、モロッコのマラケシュで現在進んでいる、パリ協定をどのように実行するか検討中の国々による交渉に影響を与えるだろう。アメリカは世界第二の二酸化炭素排出国だ。そしてオバマはパリ協定を作り上げる上で、重要な役割を果たした。

カリフォルニ大学サンディエゴ校の政治学者であるDavid Victorは、国際社会が一致して協定を維持する可能性があると指摘する。彼が言うには、一つの可能性として、中国が気候変動に関する世界的なリーダーの役割を果たすようになるかもしれないという。

Victorはまた、トランプの選出は一般に、国際関係に多大な影響を与えるだろうと言う。「アメリカのイメージをひどく悪化させるだろう」と彼は言う。「国民の約半数は、大統領として不適格な人物に投票をした」