人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

変わるロボットの概念

金出先生の講演


先日行ってきた経産省NEDOのイベントでの、カーネギーメロン大学教授の金出武雄先生の講演がおもしろかった。内容もさることながら、先生ご自身が本当に楽しんで研究をされているということが伝わってくる、わくわくとさせられる講演だった。

講演の中に出てきたマグネットと磁界で動かす方はこの方かー。
http://www.msrl.ethz.ch/the-lab/team/Brad_Nelson.html

ということで以下は金出先生の講演のメモ。

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ロボットの概念の進展には3つの軸がある。ロボットと呼ばれる前にも、歴史的にはからくりや機械でも、プログラムやメカニズム(機構)は昔からあった。

近代のロボティクスでは、コンピュータでプログラム制御をするのが、本当の意味でのロボットの進展だった。現代、ロボットが重要になったのは、メカニズムという概念から離れて、情報によって駆動されるようになったためだと思う。

ロボットは単なるメカニズムではなく、information driven mechanismであるということが重要だ。そこが現代のロボットの概念だ。

最初のロボットは力をamplifyするものだった。AIが知能をamplifyするものならば、ロボットは単なるメカニズムを超えて、情報に駆動される知的システムということになる。

その最初のものが自律機械だ。最近では自動運転もそうだ。
「ロボットは情報によって駆動される機械」という概念を得たとたんに、機械というのが必ずしもメカニカルなシステムではないということに気づく。

私たちは1980年代にカーネギーメロン大学で、音声認識で英語の本を読む子供向けプログラムを実施した。当時は精度はそんなによくない。でも、音声認識の機械は、子供たちがどのように本を読んだかわかる。当時の技術でも、「これは正しく読んでいるのか、読んでいないのか」ということがわかるので、それに応じて子供たちに対して適当な問題を出すことができる。これはロボットだ。こういった新しい概念を作り出した。

私たちは「QOLテクノロジー」と呼んでいるが、これらは人の生活をよくするものだ。人と共に働く機械へと、徐々に移ってきたのだ。

そうすると、(機械は)人が何をしているのか、人の動きを理解することが必要になる。最近ではコンピュータビジョンで完全に人の動きをトラッキングできるようになってきた。この技術がなければ、人が何をしているのかロボットはとらえられないので、助けようがない。

今は、人と何かをするテクノロジーが重要になってきた時代だと思う。
第二の軸は、人のかかわりから、人とともに、人のために、という軸だ。自律機械は人の代替だったが、今はそうではない。人とともに、人のために、という概念がだんだんと出てきた。

そのひとつの例として我々の最近の研究を紹介する。雨の夜に運転をしていると、ヘッドライトが雨粒に当たって見えづらい。雨粒は水滴だから透明だが、ヘッドライトが当たると反射して白く見えるためだ。雨粒が見えないヘッドライトを作りたいとなる。そこで、雨粒に当たらないようにヘッドライトの光をコントロールできたら、白く光らないようにできると考えた。実はこれは簡単な仕組みでできる。カメラで雨の位置を認識する。この方向に雨粒があるとわかれば、プロジェクターで光を当てる場所を制御すればいい。そう考えると、やるべきことはカメラとプロジェクターを買ってきて、それをつないでやってみることだ。

さらに、対向車線を走る運転手がまぶしくないようなハイビームを作った。相手の運転手の目に入る部分の光だけをオフにすればいい。自分からは相手が見えるが、相手はまぶしくないというライトができる。人間が運転しやすくなるようなシステムだ。

つまり、人間のことをもっと考えてつくるシステムがもっと重要になってくると思う。

3つ目に軸は何か。これまではひとつひとつのシステムが動くと、それがよくなれば全体もよくなると考えていたが、実際はそうではない。ロボットが動く環境トータルでみていかないとよくはならない。

例えば、カーネギーメロン大学では、農業用ロボットの研究をずいぶんやってきた。だが、収穫だけをやっても農業全体が効率化されるわけではない。農業には収穫以外にももっといろんなことがあるからだ。どういう虫がついているのか、どれくらい熟れているのか、それと収穫を結びつける必要がある。収穫したら、今度はそれを検査してパッキングして送り出す。これもトータルシステムとしてやっていかないといけない。今のロボティクスはそういう方向に動いている。トータルのシナリオを考えていく必要がある。

ロボットが動くというとロコモーションと考えがちだが、でもそうじゃない。これから紹介する研究は、私の一番弟子の弟子、つまり孫弟子の研究だ。スイスのETHのブラッド・ネルソンがmagnetic-field activate microrobotes and nanomedicineという研究をした。彼の発想は非常に単純明快だ。小さなマグネットを磁界の中に置くと、マグネットは進んでいく。磁界を斜めにかければマグネットは回転する。磁界によってマグネットの前進や回転を制御できるのだ。こうして磁界を自由にコントロールすることで、マグネットの動きを制御できるようにした。

これを使って、手術器具を体外から体内に入れて、対外からマグネットでその手術器具を動作するということを実際にやった。カテーテルを体内で自由に曲げることもできる。こういったマグネットのシステムは、臨床試験までいった。

これはロコモーションという概念を変えることができる。環境がロコモーションを起こすというふうにとらえられるというわけだ。

さらに大腸菌の動きをまねる60マイクロメートルの微小の構造物を作った。これは血管の中を自由に動かすことができた。体内を移動させ、必要な場所で解放する。まるで映画「ミクロの決死圏」のようなことができつつあるのだと彼は言う。これは素晴らしい考えだ。

今はなしたのは、何もロボットはこういうものでなければならない、という概念から抜けるという話だ。

ロボットの未来はDoer、Helper、Enhancerとしてのロボットだと考えている。
理想のロボットのすべきこと=人のしたいことーその人のできること±Δ
と私は言っていて、これをkanade's magic equationと言っている。この±Δというのがみそ。