人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

AIの定義

先日、某政府機関によるAIベンチャー企業への助成事業の発表があった。採択されたのは音声認識とか、診療科推論とか、監視カメラシステムなど。話を聞くにつれて、AIベンチャーというけれど、同じ人たちを数年前まではITベンチャー企業って呼んでいたし、やっている内容にしても、AIじゃなくて普通にITとかICTとかって呼んでいたよなあと、新人記者だった10年前のIT担当時代を懐かしく思い出しました。

今はAIブームなので、何でもかんでもAIと呼ばれているが、だいたい今AIと呼んでいるもののほとんどは数年前までITとかICTとか呼んだものだ(ちなみに役所的には呼称ITとICTの違いは、経産省総務省の違い)。私は定義厨なので、人から「AI」と言われれると、「今おっしゃっているAIの定義は何でしょうか?」と(余裕があれば)いちいち聞いてしまう。

ところで、エマちゃんがこの前プレゼンしていたAIの3分類はとてもわかりやすかった。今世の中の人がAIと言っているものはだいたいこの3つに分けられるよね、という分類だ。

ひとつは、「既存のITCの延長」。もうひとつは「深層学習に焦点を当てたもの」。最後に「汎用人工知能など、今はまだ存在しない技術」。

今のAIブームは、発端は2012年の画像認識コンテストでディープラーニング(深層学習、DL)を使ったチームが好成績を上げたことだと、研究者らAI専門家の間では言われている。技術的にはDLへの期待が、ブームの発端になった。一方で、社会的には経済貢献への期待がブームを盛り上げたために、ビジネスにおいてはなんでも「AI」を付けることがポジティブに働くという土壌になった。そこで、これまではAIとは特に呼んでいなかったIT関連の技術はだいたいAIと呼ぶという現象にいたったと認識している。

これ、別におかしなことではないし皮肉っているわけではなく、ただそういうものだということ。ちなみに中島先生は「AIは実用化するとITと呼ばれる」とおっしゃるし、新井先生は「AIとはデジタライゼーションすべてを指す」とおっしゃるし、だいたい共通認識だと思う。(AIブーム以前は「AI冬の時代」があり、専門家の中では「AI」という言葉を使うことで詐欺師扱いをされるという風潮があったために、人によってはあえてAIという単語を使わないようにしていたということもあったという)

ということで、だいたいビジネス文脈など実用の世界で今AIと言っているものはIT(ソフトウェア、アルゴリズム、プログラム)と置き換えて差し支えない。

一方で、2点目のDLについては、データを食わせて結果は出てくるけれど、なぜその結果になったのか、合理的な説明ができない、というブラックボックス性のために、ほかのITとは区別されるケースが多い。製品としては、説明責任を担保できないということに繋がりかねないためだ。DLの有用性の可能性が高い一方で、そのわかっていないという懸念点もあるため、区別して考える必要があるというわけだ。

3点目の「まだ見ぬ技術」については、主にAI研究者ら、AI専門家たちが研究に取り組むのは、まさにここだからだ。研究者が研究に取り組むというのがポイントで、今のAIブームの焦点になっている今すぐに、おそくとも2−3年で市場投入できる技術ではないということだ。とはいえ、AIブームの中で出てきた、未来や社会、人間についての議論では、この「まだ見ぬ技術」とそれに伴うシンギュラリティが話題になることが多い。

AIと一言で言っても、今話しているAIというのはこの3つのうちのどれに相当するのかを明確にしておくだけで、議論はスムーズになるだろう。