人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、取材とか思ったこととかの備忘録

「VRの父」アイヴァン・サザランドとメディアとメッセージ

ツイッターを眺めていたら、現在バンクーバーで開催中のSIGGRAPHのVR50周年セッションのアイヴァン・サザランド氏の動画が流れてきて、2012年に京都賞の記念講演のために来日されたときにお会いした姿と比べてお年を召されたなあと思ったのと、記念講演でのメディアとメッセージの話を思い出しました。


VR@50: Celebrating Ivan Sutherland's 1968 Head-Mounted 3D Display System

 

まだ動画全部見ていませんが。

「VR50周年」というのは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の原型をサザランド氏が1968年に開発してから50周年ということだ。サザランド氏といえば、コンピュータのインターフェイスとして直観的に操作する「スケッチパッド」を提案した博士論文の研究で知られるが、VRの系譜としてはHMDを開発している(このHMDパイロットのシミュレーターとして開発された、いわゆる「軍事研究」ともいえる)。なお、VRバーチャルリアリティー)という言葉は当時はまだなく、VRという言葉と概念が広まったのは、VPL Researchを設立してHMDを初めて商用化したジャロン・ラニアーによってだ。

サザランド氏が京都賞を受賞したのは、スケッチパッド開発の功績だが、記念講演のテーマは「メディアとメッセージを区別する」というものだった。もちろんマクルーハンの「メディアはメッセージ」に引っ掛けている。

記念講演のメモをevernoteに記録していたのを見つけたので、以下は自分メモから引用。

 

マクルーハンは「メディアはメッセージである」と言ったが、今日私は「メディアとメッセージを区別する」という話をする。メッセージを作る人は、アーティスト、エンジニア、すべての人たちだ。私はメディアを作ってきた。

 

1960年にカリフォルニア工科大学からマサチューセッツ工科大学へ移った(博士課程)。スケッチパッドのためにTX-2(MITリンカーン研究所にあった大型コンピュータ)を使いたいとウェズリー・クラーク(TX-2の開発者)のところへ行って使わせてもらった。TX-2は20センチメートル四方のスクリーンがある。スクリーンの下にあるノブを回すと、スケールなどを変えられる。図面を描くためのインプットにはライトペンを使う。最初に線を描いてみた。シャノンが「円を描け。円の方が難しい」と言った。

 

スケッチパッドはメディアだが、メッセージはない。当時は私しかスケッチパッドを使いこなせなかったし、一般のユーザには使えるものではなかった。

 

VRHMD)の研究を始めたのは、ヘリコプターからヒントを得た。カメラを付けて、カメラとパイロットの動き合わせるようにした。

 

偉大な仕事をするには取り組むべき課題がある。以下の3つだ。

この中で最も重要で代えがたいものが、リーダーシップだ。

 

今日の私の話はすべてメディアの話だ。だが、メディアを本当に役立つものにするには時間がかかる。

 

一方、映画のすばらしさはそのメッセージ、コンテクスト、ストーリーにある。私はメディアに取り組んできたが、メッセージは難しい。

 

とても偉大な「VRの父」の一方で、自分のやってきた過去の仕事をとても謙虚に話されるのが印象的でした(現役研究者なので今の研究の話をする方が楽しそうに見えた)。

記念講演の翌日、京都賞関連で行われた小学生向けワークショップも取材させていただいた。そのみちの専門家がずらりと並んだ記念講演とは打って変わって、自らヘルメットをかぶってシーソーのような板の上に乗っててこの原理を実演するなど、体を張った実験を行った。「子供の頃からモノづくりが好き、科学はただおもしろいからずっとやってきたしこれからもやっていく」と仰った。

とても楽しそうで手慣れた様子でのワークショップだったので、子供向けのワークショップはよくあるのかと聞いたら、「初めてだ。今日のために入念に準備をしてきた。科学は楽しいと子供たちに伝えたかった。自分の目で見て触って確かめられるものを伝えようとした。だから今日はあえてコンピュータの話はしなかった」。

実際ワークショップではスケッチパッドの話もHMDの話もなかった。ワークショップでのサザランド氏は「VRの父」のイメージと良い意味であまりにも違って意外で、「サザランド氏の伝える力」みたいな記事を書いたっけ。

サザランド氏はスケッチパッドやHMDなどのHCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)を開発してきた先駆者だ。HCIの研究者はいわば人とコンピュータの意思疎通を円滑にする専門家で、そういったコミュニケーションについてずっと考えてこられた方は、人と人とのコミュニケーションにもとても深い考えとそれが染み出てくる人との付き合い方があるのではと感じた。