人間とテクノロジー

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「AI医療機器」の承認・審査は「プロセス評価」に

本文大量のデータを学習させることで、認識精度が向上する機械学習などのAI技術を活用して開発される、いわゆる「AI医療機器」の 開発が進むが、国の審査・承認といった現行制度はこうした技術進歩に追いついていない。こうした中、AI医療機器の開発を進める医療系ベンチャー企業などが「AIを活用した医療機器の開発と発展を目指す協議会」を設立、5月31日に設立総会を開催した(https://www.m3.com/news/iryoishin/679634参照)。


診断や治療などに使われる医療機器は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づく審査・承認を得ないと基本的には医療現場では使うことができない。「医療機器」というと、ハードウェアを思い浮かべるが、2016年から「医療機器プログラム」という領域が新たに作られ、ソフトウェア単体で薬機法に基づく審査・承認を得られるようになった。なお、それ以前はソフトウェアはハードウェアに付随するものとして審査・承認を得るため、ソフトウェアをアップデートするならハードウェアとセットで新たに審査・承認を得る必要があった。


一方2016年以降は「医療機器プログラム」としてソフトウェア単体でも審査・承認されるようになったが、いわゆる「AI医療機器」も実体はアルゴリズム(ソフトウェア)なので、臨床現場で使用するために医療機器プログラムとして審査・承認を受ける。


機械学習ベースで作ったプログラムは、利用する中で新たに生まれたデータを学習に使うことで、認識精度が向上する。例えば、X線やCT、MRIといった画像診断の支援ツールとしてAIを活用する場合、検査画像を入力するとAIが病変を自動認識して医師に提示する。ここで最終的に判断するのは医師のため、医師の判断とAIの判断が異なっている場合、医師の判断結果をフィードバックしていくことで、より画像診断支援ツールとしてのAIの認識精度を上げることができる。


ところが、現行の医療機器プログラムとしての審査・承認体制は、そもそもこうした学習による性能向上や承認後の頻回のアップデートを想定していない。もともとハードウェアとしての医療機器の審査基準に基づいているので、プロダクトとしての性能を評価するため仕方がないこととはいえ、性能変化が速いソフトウェアの性能評価プロセスとしては現実的とは言えない。ディープラーニングを始めとした機械学習ベースでの画像認識ツールの研究が急増したのはここ3年ほどだが、実際に臨床で使うとなるとこの審査・承認プロセスが大きなボトルネックとなってくる。


AI医療機器の開発加速化を目指し昨年設置された厚労省の検討会である「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」(座長:北野宏明・ソニーコンピュータサイエンス研究所社長・所長)では、「AIはアップデートが早い。(再審査など制度上の壁のために)古いものを使い続けるというのは、根本的に違うだろう」という指摘がある。また、より極端なものとしては、「AIは(薬機法上の)医療機器としてなじむものではなく、医療機器としない方がいいものもあるのではないか。(診断支援ツールなどの)アプリは医療機器にはならないだろう」という意見も出ていた(https://www.m3.com/news/iryoishin/672247参照)。


とはいえ国も何もしていないわけではなく、厚生労働省の次世代医療機器評価指標検討会人工知能分野審査WG(座長:橋爪誠・九州大学名誉教授/北九州中央病院院長)は市販後にプログラム性能が変化するAI医療機器の評価について2年前から検討を進め、昨年の中間報告を経て今年4月に「人工知能技術を利用した医用画像診断支援システムに関する評価指標(改訂案)」を公表している。同指標では性能変化に伴う対応として、継続的な性能検証方法を定めておくこと、また性能変化に伴う品質確保の対策をとることとした。また、薬事上の手続きにおける考え方として、一般にはプログラムの性能向上では再度薬事審査が必要となるが、データ学習による性能変化というAIの特殊性を踏まえたうえでの効率的な手続きの検討が必要とした(http://dmd.nihs.go.jp/jisedai/Imaging_AI_for_public/H30_AI_report.pdf参照)。

 

厚労省は今国会に提出した薬機法改正案が実現すると、AI医療機器の承認・審査がより迅速化・合理化される余地がある(ただ6月末の会期までに成立しなければ廃案になる可能性がある)。


そのひとつが、プロセス評価の採用だ。厚労省が5月8日に開催した「第6回国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する協議のためのワーキンググループ」(座長:公益財団法人医療機器センター理事長の菊地眞氏)では、「継続的な改善・改良が行われる医療機器の特性はAI等による技術革新等に適切に対応する医療機器の承認制度の導入」が基本方針として提案されている(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204801_00005.htmlhttps://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000507448.pdf参照)。


具体的な内容はいくつかあるが、「医療機器の改良プロセスを評価することにより、市販後の性能変化に併せて柔軟に承認内容を変更可能とする方策を踏まえた承認審査を実現」するとしている。