人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

「よわい」人間と「つよい」人間

 自分が目立ちたいと思っていなくて、恥ずかしがり屋で、誠実に言葉を選ぶ「よわい」人間と、自己アピールが得意で、それゆえセンセーショナルな言動で人を惹きつける「つよい」人間に、おおまかにわけられるとしたら、私は「よわい」人間に共感し続けている。記者になってからずっと。

 「つよい」人間は、周りへの影響力が強い。わかりやすく、短く力強い言葉で、断定して話を進める。メディアアピールを意識して言葉を選ぶから、ペン記者としては字にしやすい。テレビなら絵になりやすい。

 一方、「よわい」人間は、言葉を慎重に選ぶ。正確さを重視する。世の中多くのことは複雑で、わかりにくい。だから、誠実に正確に伝えようとすると、短い言葉では伝わらない。丁寧に話して、説明して、質問をして、やり取りをしてというプロセスが必要になる。

 でもそれは、短い言葉とか一瞬の絵とかで伝えようとするマスコミの手法には、マッチしないのだ。

 マスコミで記者をしていると、「つよい」人間にたくさん出会う。「つよい」人間はそれゆえにメディアに取り上げられることも多く、その「つよさ」を強化させていく。経営者といったトップのほか、組織に所属せず個人で仕事をしている人に多いのは、営業やPRの必要があるので必然だろう。

 彼らの言葉は強い。マスコミによってそれはさらに増幅し、拡散されていく。

 でも、本当に、問題を克服して生き延びていこうと思ったら、まず目の前の現実を丁寧に見つめて理解して自分の頭で考えないといけないと思うのだ。誰かが言ったことに追従するのではなく。

 「つよい」人間の言う言葉は、彼らにとってはとても価値のある重要な言葉だ。でも、それがいつでもどこでも誰にとっても有用とは限らない。むしろ、わかりやすさゆえに、聞き手の思考を停止させてしまう副作用を持つ。

 おもしろいけれど「よわい」人間のことを、彼らの話を、ほかの人たちに伝えたいとずっと思っている。研究者に多いんだ。それが自分のライターとしての目標。難しいけど。

 なんとなくそんなふうに思って書いたのがこれらのインタビュー。彼らの言葉をそのまんま他の人たちに伝えたいと思って書いた。

「人工知能が浸透する社会を、異分野の研究者たちとともに考える」江間有沙さんインタビュー

「ある意味で人が機械に操作される」これからの、人と機械の新しいあり方――鳴海拓志さんインタビュー(前編)

「現実を編集する」インターフェース研究――鳴海拓志さんインタビュー(後編)