人間とテクノロジー

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「電脳コイル」の世界を実現するHoloLensはミライを感じるけれど初心者にはまだ難しかった

 ネットで記事を見かけるたびに、やりたいやりたいとつぶやいていた、マイクロソフトのHoloLens。先日、ひょんなところで偶然体験できたのでメモ。ミクミンPさんに感謝です。

 HoloLensはARゴーグルだ。ドラゴンボールスカウターのようなものだ。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)のように被るとディスプレイの映像だけが見えるのではなく、シースルーの透過型ディスプレイを介して画面の向こうの現実世界を見ながら、そこに重ねあわせた映像も見える。現実世界に、映像情報を付加しているというわけだ。また、画面に表示されるアイコンを指先でクリックして操作をすることで、あたかも目の前の空間にあるパソコンのデスクトップを作業しているような使い方ができる。

 写真はHoloLensを被り、透過型ディスプレイを介して空中に表示されているかのようなアイコンを指先で操作をする、HoloLens持ち主のミクミンPさん。デモのため、彼がHoloLens越しに見えている様子が、右側の壁にプロジェクタで投影されている。カメラを持つ私の右側には、バーチャルなボックスが表示されているのがわかる。

 おもしろいのは、このゴーグルそのものがスタンドアロンで動くWindows10搭載のPCということだ。もちろんバッテリも入っているので、ケーブル無しで動きまわって使うことができる。多くのHMDはPCと接続して使うためケーブルで繋がっているが、ケーブルがないだけで一気に実用感がでてくる。これは期待。

 ミクミンPさんのデモは神がかっていた。空中に浮かんでいるバーチャルなエクセルを編集したかと思えば、壁にバーチャルなポスターを貼ったり、机の下にいるバーチャルな猫を覗きこんだり・・・と、まるで電脳コイルの世界。

 やらせてもらった。かぶると、それほど重くはない。普通のHMDより軽いくらい。思ったよりも、視野が狭い。透過型ディスプレイを介して、Windows10のデスクトップにあるアイコンが出てくる。自分の目線をアイコンに合わせて、自分の指先を曲げてクリックのように操作をする。

 これが、なかなかできない。難しい。視線を合わせるところまではできるが、指先でクリックをして思うように操作ができない。ミクミンPさんが以下に神がかっているかを実感した。

 HoloLensを本当に使いこなそうとしたら、専用のUIが必要だろう。デスクトップでマウスで操作をすることが前提のWindowsのUIでは使いづらい。だいたい、指先を空中で動かして折り曲げる動作は普段しない動作のため、ちょっとの時間でもすぐにつかれる。長時間続ければ腱鞘炎になるだろう。

 入力は指先を使うのではなく、マトリックスのように手のひら全体を使うほうがいいかもしれない。でも、手のひらを大きく動かすのは疲れる。そうすると視線や頭の動きを使うのがよいかもしれないが、動作のバリエーションが限定されるだろう。

 もっとも人はすぐに慣れるので、普及すればUIはなんだってかまわないだろう。キーボードの配列は当初、早く打ち過ぎるとコンピュータの処理速度が追いつかないため、あえて早く打てないような現在の配列にしたと聞いたことがある。

 それより問題はアプリケーションだ。不便さにもかかわらず使いたくなる、使わざるを得ないキラーアプリが必要だ(これはHoloLensに限らず、あらゆる新しいテクノロジーで同様だが)。

 という点では、マイクロソフトがHoloLensをエンターテイメントなどコンシューマ向けではなく、エンタプライズ向けに絞るとする先日の報道は興味深い。

 確かにコンシューマ向けにはまだ少し価格が高い。開発者向けに北米で販売中だが、価格は3000ドルだ。