人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2017から

ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2017と題した、5人のノーベル賞受賞研究者ら国内外の著名研究者らによる講演会が今日、東京国際フォーラムで開催された。テーマは「知の未来〜人類の知が切り拓く人工知能未来社会〜」。正直なところ、人工知能をテーマとしていながら情報科学が専門外の方のセッションはどこかで聞いたことがあるような表面的な議論にとどまり、それほど議論が深まっていなかったというのが印象。

 

以下は「講演 “人工知能の未来と挑戦 (1)” -コンピューターサイエンスと機械学習-」と題したカーネギーメロン大学教授のトム・M・ミッチェル(Tom M. Mitchell)さんの講演のメモ。ほかにもメモをとった中から、アップします、気が向いたら。

 

AIは、私たちに2つの基本的な影響を与えているということが今日の私のメッセージだ。ひとつは、生活水準が大きく向上するということ。例えば交通渋滞の解消、洪水の対策、生産性の向上、行政サービスの向上などがある。もうひとつの影響は、その結果、倫理観や法律、冨の配分、我々の自己認識などについて、見直しの必要があるということだ。

AIの動向をもとに、今後10年間に何が起こるのか、我々にどのような影響があるのかを見直したい。

ひとつ、AIの大きな影響が、コンピュータビジョンといった知覚の技術だ。コンピュータビジョンの精度がここ5年で飛躍的によくなり、誤差レベルは人の視覚レベルにまで下がっている。短期間のうちに、大きな前進があった。

音声認識も同様に進展があった。マイクロソフトが昨秋公開した音声認識セットは、ほぼ人間と同じ精度で認識ができるようになった。

それからロボットは、自動走行車だけでなく、無人の飛行機、掃除機、農場や鉱山でも無人機が作業をしている。

もうひとつ大きいのがゲームといった合理的な認識の分野だ。昨年、Googleのアルファ碁は、人間のプロ棋士に勝った。ほかにもフェスやポーカーでも人間はAIにかなわない。

これらの背景には何があるのか?その答えはおもに機械学習が大きく進展したことだ。AI研究者の戦略が変わった。

かつての研究者の戦略は、アルゴリズムを書くというものだった。でも今は、トレーニングをさせる。大量のデータから学習をさせるのだ。

例を見せて機械が学習をさせる。例えば、母親の写真を判別したい。これが母親の写真、こっちは母親ではないと、正解と不正解の例を上げて学習をさせる。機械は画像のレベルで区別ができるようになる。それが機械学習だ。

従来のように一行ずつルールを書くのではない。この機械学習は様々な問題に汎用的に活用できる。すでに何千もの商業的な問題が機械学習によって解決されている。

例えば、電子カルテで肺炎の診断をするとする。分類して特定の治療が効果を挙げるか。クレジットカードの不正利用を判定できるか。機械学習やデータをつかって機械をトレーニングさせることが、今、AIが大きく伸びている根底にある。

すでに社会にはこれらのインパクトが始まりつつある。ここ10年以上続いているデータ集約型のエビデンスベースの意思決定がますます強まっている。これが生活のあらゆるところで見られる。それにビッグデータ機械学習で活用することで加速している。新たな経験主義の時代が始まっていると言えるだろう。

では、次のAIはどうなるのか?

自身を持って言えるのは、これからも機械学習の活用は進むということだ。より多くの組織がより多くのデータを集めている。内部プロセスの最適化や顧客ニーズへの対応がなさている。

もうひとつのトレンドは、人間を超える(superhuman)ような視覚や聴覚を実現するツールだ。すでに検証は始まっている。例えば私はコンタクトレンズをしているが、これによって視力を挙げている。コンタクトレンズや補聴器のように、人間の能力を超えるようなプロダクトは、ビジネスになるだろう。

もうひとつは、機械として本当に理解ができるものだ。検索エンジンはすでにありキーワード検索はできるが、検索エンジンは意味理解はしていない。今後AIの進展でテキストの理解を機械ができるようになれば、画期的なことになる。

なぜなら、コンピュータは人間の何百万倍もの書籍の情報を読み込める。検索エンジンが今のような形ではなく意味理解ができるようになれば、読書アシスタントができて、何を読み込めるのかをベースに一段落にまとめ、こういう引用がある、という情報として提供してくれることになる。

これが実現するなら大きな影響があるし、私は実現すると思っている。

もうひとつのトレンドとして、対話型アシスタントがより普及するだろう。今でもスマホに天気を聞けば答えてくれるが、より進んだものだ。

例えば、私はピッツバーグに住んでいるが夜雪が降ったら翌朝はいつもより30分早く目覚ましをかけてくれるアプリがあるといい。「夜に雪が降ったら30分早く目覚ましをかけてね」とアプリに言うと、でもアプリはそのやり方がわからないから教えてくださいと言う。では、天気予報アプリでsnowと書いてあれば雪が降るということだ、といったように会話で、自然言語で教える。これは、会話でプログラミングをしているということだ。雪が降る状態を検知さえすれば30分早く起こしてくれるようになる。これがAIの目指す方向だ。

これは10年で実現すると考えている。我々全てがプログラマーになるということだ。今でもソフトウェアの書き方を知っている人はいるが、何10億人という人が会話でプログラムができるようになる。カスタム化をしたりアイデアがある人達が桁外れに増えていくだろう。

これが今後起こりうるものの例だ。それが社会、我々の自己認識をどのように変えていくのだろうか。

まず、都市部における生活をかんがえるとする。自動走行車が出てきたらどうなるか。プラス面としては交通渋滞や事故がなくなるだろう。交差点でも人間をうまくかわしながら車同士が融通し合う。駐車スペースも増える。都市部で混雑していれば、郊外に駐車することもあるかもしれない。

車のセンサーが、都市の行政当局に情報を上げていき、都市の全体像が見えるようになる。センサーネットワークに支えられた都市が実現する。そこからのデータに対して機械学習を適用すると、予測ができるようになる。ある場所で人が混雑し始めたら、30分後にはどうなるのか、増えるのか減るのか予測ができるようになる。バスを増員するとか警察を出動させて群衆管理をするという計画をたてることができる。都市としてはより知的になる。

例えば救急車が自動走行車に停止するように指示するとか、オートバイが救急車の妨害をすることがないように操作をするといった、アクチュエータ管理も可能になる。

そうすると政府の役割が変わる。情報を使って何かを制御するかわりに、情報を提供することも必要になる。

もうひとつが雇用の影響。自動走行車が増えればタクシーは減る。しかし自動化が進まないものもある。逆に機械によって、人間の能力を超えるメガネや補聴器をつけて警備員はもっといい仕事ができるようになる。それからワークフロー支援もある。

AIはプラス面とマイナス面両方の影響が雇用の面で出て来る。仕事をやりやすくする面もあれば、なくなる仕事もあれば、新しい仕事も出てくる。再訓練も重要になる。

オンラインの学習システムはAIによってより柔軟に学習ができる。例えばUBERをやっている人はやりたいときに仕事ができる。AIによって乗客とドライバーをマッチングさせる、ほかにもマッチングはありうる。

一方で、一番気になっているのはこれ。AIの進歩によって全体的な雇用に対して影響はどうなるのか。富の分配について格差がさらに広がるということだ。AIによって全体のパイは広がる。ところが所得配分の格差が広がるとなると、AIを指示する人はいない。雇用でなくなる職業は、もともと高所得でないものということだ。

それに対してまず教育を向上させるためにAIを使うことになる。富の格差、所得格差には対応が必要だ。

一部の職がなくなる一方で、本当に必要なものはなにか。そこで職業訓練をする必要がある。

もうひとつ、考えたいのが、我々自身の自己認識はどうなるのかということ。私自身ネットで変わった。友人とのやり取りが増えた。テキストやメッセージ、Googleでの検索で知識レベルは上がった。

人間の能力を超えるようなメガネや補聴器が出てくると、私たちの体に対しても大きな変化がでてくる。そうすると、自分の価値をどう見出すかについても影響が出てくる。

最低限の所得補償がされても、コンピュータに仕事を奪われているということで、自分は本当に社会に貢献しているのか疑問を持つ。自分よりもコンピュータのほうが役立っているとなると、自尊心にも影響が出る。

AIが加速的に変化しているのは事実だ。