人間とテクノロジー

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イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密

ナチス・ドイツのエニグマによる暗号の解読を進めた英軍でのアラン・チューリングのストーリーを描いた「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」を観ました。AmazonPrimeで無料だったから。もう2年前の公開なのね。

 アラン・チューリングは言わずと知れた数学の天才で、今のコンピュータの父であり、人工知能(という言葉は当時はなかった)の元の理論を作った天才であり、また機械と人間を判別する「チューリングテスト」の由来にもなっている。

詳しくは、以下で桂さんが解説しています。いい記事です。

wired.jp

時は対独戦争中。ドイツ軍の爆撃機ががんがん飛んできて、軍艦だけでなく、民間船や米国からの救援物資の輸送船までもがんがん爆撃していく。いったいいつどこからやってくるのかわからないドイツ軍に、英国は怯えている。

そのドイツ軍の動きの鍵を握るのが、暗号生成器のエニグマだ。ドイツ軍は毎朝6時に無線で暗号を送信している。英軍はこの信号の傍受をしているが、エニグマによって暗号化されているから解読できない。それも、暗号を解読するキーは毎日0時に更新される。たとえ1回解読できても、次の日にはまたゼロからやり直しになるというわけだ。

そこで、英軍は暗号のキーを生成するために、チューリングらはマシンを作ろうとする。マシンによってキーがわかれば、ドイツ軍の暗号を解読して、次の爆撃予定地がわかる。ドイツ軍の動きが手に取るようにわかるようになるというわけだ。

チューリングらは数学者。でも、その数学の手法によって英軍を支援して戦争に勝とうとする。映画の中でチューリングが自分たちがマシンを作るのは、「戦争に勝つのが目的だ」と言う場面がある。

チューリングは、暗号解読のためにマシンを作るのに10万ポンドの予算を要求する。重要な軍の任務のためだから、その予算は出て、チューリングらはマシンを完成させる。

戦争は、有史以降ずっとテクノロジーの進歩を後押ししてきた。原爆開発で有名なのはマンハッタン計画だが、第二次世界大戦中は日本でも「科学技術動員」として科学者・技術者が戦争のために集結された。チューリングは戦争がなくても天才だっただろうが、戦争がなければ、暗号解読のためのマシンは作られなかっただろう。

今の日本では、「軍事研究」に対するアレルギーのような拒否感が強い。でも、ずっとそうだったわけではない。先日読んだ杉山先生の「「軍事研究」の戦後史:科学者はどう向き合ってきたか」で非常に興味深かったのは、日本の科学者やメディアの中に「軍事研究」を否定するアジェンダ形成がされてきたのは、戦後20年かけてのことだったというくだりだった。

 

「軍事研究」の戦後史:科学者はどう向きあってきたか ( )
 

 先の戦争での科学技術動員に対する反省から「軍事研究」を禁止する流れとなったと説明されることが多いが、そんな単純な話でもなく、左翼の活動や全共闘学生運動の関連も深い、と東大全共闘を知る教員関係から聞いたことがある。

まあそれはさておき。

戦争、もしくは安全保障や防衛と、科学者、技術者、科学技術研究のあり方は、「軍事研究」とか「デュアルユース」といった単語で思考停止してしまうのではなく、もっと細かく具体的に考えないといけないんじゃないかなあと思うのです。ただ是非を声高に叫ぶだけじゃなくって。