展示物すべてが”フェイク”?「クローン文化財」のシルクロード企画展がとてもよかった

昨日から藝大で開催されているシルクロード特別企画展「素心伝心」は、展示物のすべてが失われた文化財を複製した「クローン文化財」で構成される展覧会だ。

バーミヤン石窟を始めとして、シルクロード仏教文化財の中には、近年の紛争など失われたものが少なくない。そこで藝大では、資料や三次元計測などを元にしてあたかも本物と同じような見た目や質感の「クローン文化財」を制作した。

複製技術推しなのかと、あまり期待せずに行ったら、展覧会としてとても良くてびっくりした。素人の私にとっては、仏像も壁画も、本物でも複製でも、多分区別がつかない。「クローン文化財」とはフェイク。本物ではない。だが、展示物が本物である必要性はいったいどのくらいあるのだろうか。「本物」がすでに存在していないという事実もまた、フェイクであるクローン文化財の価値を意味づけする。

10月26日まで開催している。入館料は1000円。

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まず入ると、すぐに気づくのが香りだ。まるでお寺の中に入ったかのような、お線香の香りがする。ここには、法隆寺金堂壁画と釈迦三尊像が再現された展示がある。

「触れる展示」も。複製ならではだが、複製とはいえクローン。質感なども本物の再現をしているという。

アフガニスタンのゾーン。

展示物が「本物」ではないということから、むしろ展示としての幅が広がっているのが興味深かった。たとえば、展示物に自由に触れることができる。部屋中にお線香の香りが充満する。指向性スピーカーにより、ラクダの足音がどこからともなく聞こえてくる。

 

デジタル技術によって、展示を豊かにしようという試みはこれまでもある。今回の藝大の「クローン文化財」も文科省COIという研究費助成事業の一貫として行われているが、10年位前にも、文科省ではデジタルミュージアムの基盤技術開発という研究費助成事業があった(事業仕分けとかいろいろあり途中で終了したが)。デジタルミュージアムのプロジェクトでは、「本物」にデジタル(映像投影など)によって情報を付加して拡張するという方向性がメインだったと記憶している。