人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

2017年振り返り

今年の振り返り。テクノロジーもの中心に、書いた記事の中で印象に残っているものをいくつか。所属先のAERAがほとんどですが、たまにほかでも書いていました。
AERAは雑誌の記事を切り刻んでウェブに載せていて、一応リンク貼っていますが、雑誌では大特集の一本だったものを分割して一本原稿としてウェブ記事になるし見出し変わるしで、元記事の文脈が変わることが多々あります。。。)

Post-truth関連

昨年の米大統領選挙とトランプ大統領誕生の影響で、今年の前半はPost-truthの話題がことかきませんでした。フェイクニュースそのものというよりも、「エビデンス」や「事実」の描かれ方、扱われ方に関心がありました。

「産学官」のエビデンス合戦 あなたは健康ビジネスを信じますか 2017/4/17 AERA
内閣府ImPACTの「脳科学」プロジェクトの過剰広報について。科学技術の情報流通については、広報PRの弊害がここ数年目立ってきたと感じています。この記事もともと大特集にねじ込んだんだけれど、当初ウェブ掲載見送られて、新聞が記事にするようになって話題になってきたらウェブでも掲載されました。

ネットで軽くなる「事実」の重み 2017/5/25 日経サイエンス
→「トランプVS科学」特集の中で書いた記事。

フェイクニュースに抗うテクノロジー アルゴリズムは分断を克服するか 2017/7/10 AERA
→上で書いた記事に続いて、ではどうしたらいいのかなーというところを取材した記事。

人工知能(テクノロジー)と社会、人間への影響関連

AIというかITと社会や人間の変化はずっと関心がある分野で、AIブームなのでAIというと記事になりやすいのでAIと社会と一応言っています。記者として外から観察して書く、というよりも、一緒に議論して考えていくということがここ数年は増えていますが少しは書いています。

SFなどコンテンツを介してテクノロジーと社会を考えるというのが好きで、その関連からアニメや映画をとっかかりにした記事も書いていました。

複雑化する社会を良く生きるためにテクノロジーでできること 2017/2/15 ハフポスト
→昔からの取材先のじゅんじさんが監訳をしたウェルビーイングについての本が出たので、それについてじゅんじさんと江間ちゃんに対談してもらった記事。

暗い未来のほうがリアル ディストピア小説が静かなブーム  2017/2/20 AERA
→テクノロジーと社会について考えるときに「ディストピア」という状況を想定して考えていたところにトランプ政権誕生で「1984」が売れているというところから取材して書いた記事。

目指すのは「人間の拡張」 『攻殻機動隊』は研究者たちの必読書 2017/4/3 AERA

押井守監督はハリウッド版をこう見た! スカヨハの「ゴースト・イン・ザ・シェル」 2017/4/3 AERA

「人工知能脅威論」が覆い隠す、本当の問題は何か?ーー日仏の研究者が議論 2017/6/1 ハフポスト

仏学者が警鐘鳴らす「AIと巨大IT企業の情報操作」 2017/6/28 AERA.dot

AIは神様になれるか テクノロジーと宗教の究極の「融合」 2017/7/30 AERA

四十九日まではロボットで一緒に 弔いだって最先端はデジタル化  2017/7/30 AERA

「AIも怒る」は幻想です 技術の進歩でSFロマンは過去の遺物へ 2017/9/4 AERA

言葉はもういらない 「触感」「表情」「bot」が感情決壊を防ぐ  2017/9/4 AERA

 会わないほうがうまくいく 2017/10/23 AERA

→大特集でオンラインやITが日常の私たちのコミュニケーションについて書きました。VRコミュニケーションのような不可避な今後をもっとくっきり描きたかったんですが、紙媒体の特性上もう少し近視眼的な話になりました。でもコミュニケーションの変容に関心があるので印象に残っています。

初対面でハグしちゃう!? VR体験型パフォーマンス「Neighbor」とは 2017/11/4 AERA

ネクストブレイク100 2018年はこれが来る! 2017/12/25 AERA

→年末恒例大特集で、テクノロジー関連はAIからAH(人間拡張)へ、をテーマに企画しました。ほかにモビリティや医療なども担当しましたが、全体的にAI(というかIT)のようなテクノロジーを使いこなすことで人間が賢く強くなっていく、という文脈で書いています。テクノロジーが人間を賢く強くするというのはテクノロジーはただの人間が作り出したツールである以上アタリマエのことなんだけれど、昨今のAIブームやテクノロジー信仰の風潮ではその当たり前のことが忘れられて過度に期待されたり恐れられたりする向きがあり、それがいかがなものかと思っているので、あえて人間拡張というワードを強調しました。

 

記者以外の活動


AI(というかIT、もっというとテクノロジー全般だと思っている)と人間、社会の関連について関心があって、客観的に記者として観察して書くだけじゃなくて、中に入って一緒に議論して進めていけないかといろいろやっていました。

人工知能学会倫理委員会 倫理指針(2017/2)
委員をやらせてもらっている人工知能学会学会倫理委員会で倫理指針をつくり、2/28に公開しました。

IEEE "Ethically Aligned Design" ワークショップ(2017/4-7)

IEEEではAIなどの自律システムを倫理的に配慮しながら設計していくための報告書を作っていて、そのバージョン1についてフィードバックをするための勉強会をエマちゃんと一緒にやっていました。最近アップデートされたバージョン2が出たので、こちらの勉強会も年明けから始める予定です。

人工知能学会誌 Vol. 32 No. 6 (2017/11)の小特集「マスメディアから見た人工知能」に、「マスメディアから見た“AI”と専門家から見た“AI”のギャップを越えて」という記事を寄稿しました。記者として、いろんな分野の専門家と一緒にこういうことがやりたいっていう話を書いています。
編集委員の鳥海さんの巻頭言、小特集「マスメディアから見た人工知能」にあたっては無償でPDFがDLできます。

あとほかに、ひでまんさんにお声がけいただいて赤ちゃん学会post-truthについて話題提供したり(2017/7)、マカイラさんにお声がけいただいて広島の平和に関する会議でテクノロジーと平和のパネルでデュアルユースの話題提供をさせていただいたり(2017/9)と、人前で話す機会がパラパラある1年でした。普段人前で話すことがないので、たまに機会があると楽しい。

 

記者としてAERAでは何でも書いていましたが、今年後半は特にテクノロジー関連を特集の中に入れることを意識していました。ただいろいろ企画したり書いたりしていて、一般向けの週刊誌でテクノロジー中心の取材記事を書くことは、もうそぐわないんじゃないかと、今は考えています。専門媒体ならありなんだけど。

一般の人向け媒体では、テクノロジー中心ではなく、社会側、人間側が課題を抱えていて、その解決方法のひとつとしてテクノロジーがあればそれを書けばいい。ただ、テクノロジーが主体になるのはちょっと違うんじゃないかなって思っています。AIにしろAR/VRが大きく話題になっている昨今だけれど、社会に入っていくのは必ずしもテクノロジードリブンではない。新しい、先進的な、先端技術によって社会をドライブしたり変えていったりするわけではない、ということを、そのあたりの分野を取材してきたここ10年で痛いほどに実感しています。それにもかかわらず、テクノロジー中心で書くと、そのあたりに寄りがちになる。それはデスクからの期待(忖度)もあったり、テクノロジー側(研究者、開発者)の関心や願望がそこにあったりするからなのだけれど、もっとも、取材する側としてもそこがおもしろい。でも、社会の実態にはそぐわない。そういうちぐはぐさは、ここ10年で強くなる一方でした。

ということで、来年は課題側から書ける場所にうつります。課題とその解決のひとつとしてのテクノロジーについて取材して書いていければと。それと、記者以外の個人でやってきたテクノロジーと人間や社会について考えて前へ進めたいなー活動の幅を、今度は仕事として少しずつ広げていければと思っています。

去年の同じ時期の振り返り

一方で、取材して書く、というだけでなくそれをもう少し推し進めて、形がないところから取材先も含めてみんなで一緒につくっていくという仕事は、新聞社を辞めた時からずっとやりたいと思っていながらなかなかできていません。つくっていく、というのは記事やメディアそのものというよりもっと大きな、メタな考え方とかあり方とか概念とかシステムとかなのかなあ。ぼやっとしていますが、その具体化も含めて、来年の課題です。来年のテーマは「定点観測ブイかつ船になる」

と書いていましたが、その点では少し進められた一年だったと思います。人工知能学会誌の小特集ではそのための具体的な取組みについて書いたつもりです。ということで来年のテーマは「定点観測ブイかつ船になる(船の比重を今年よりも高める)」です。