ITは無色透明な空気になり、社会に浸透する
イケイケドンドンの時代は良かったよな。
ってデスクが言ったのはすでに10年前のことだ。新しいテクノロジー、特にITの開発もののニュース記事を書くのが、難しい時代になったな、と思う。先端技術の開発や研究成果によって明るい未来を約束するといった文脈の記事は、いまではいかにも頭が悪い能天気な、下手したら提灯記事に見えてしまう。
もっとも、特にスピードが速いIT分野では、第三者としての記者であっても、ある程度はIT分野の企業や研究者と足並みをそろえ得つつある意味ではエバンジェリストとして記事を書いてきたというのは、ここ20年くらいのIT記事を読めば明らかだ。それだけに、余計難しい。
ここ数年、紅白歌合戦はテクノロジー学芸会さながらで、演出のテクノロジーを楽しむのが恒例になっていた。ところが昨年末の紅白歌合戦はテクノロジー要素が少なく、唯一注目が集まったperfumeの演出も、知識なく見るとテクノロジーのすごさがわからない、一見「当たり前」に見える演出だった。
渋谷の街でビル(セルリアンタワーらしい)の屋上でスポットライトを浴びて歌い、踊るperfumeの3人。終盤にかけて、そのビル周辺の渋谷の街のあちらこちらから、サーチライトが3人に向けて発せられる演出があった。渋谷の街にサーチライトを仕掛けた?そうも見えなくないが、実際は他の映像をリアルタイムで重ね合わせたAR的な演出のようだ。ただし、技術に関心がある人以外は、どちらでもいいことなのかもしれない。
ITはバレたら負けなんだよ。
ってエマちゃんは言う。本当に社会に入り込んでいる、お金になっている、仕組みに入り込んでいる、そういうITは、学芸会の目玉になるものではない。その意味では、パフュームの演出は、ある意味「バレない」ITになっていたのかもしれない。
こうした「バレない」ITには、「未来をつくる」「世界を変える」といった派手なフレーズとともにメディアで持ち上げるケバケバしさはない。むしろ、無色透明な空気のように、すこしずつそっと入れ替わり、でもそのうちそれなしでは私たちが呼吸して生きていくことができなくなるようなものだ。
だからITに関しては、技術そのものの記事よりも、アプリケーション側から書くことに重点を置いていこうって、思っています。技術主体ではなくって。