人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

かわいいロボットは市場を形成するか

取材でロボットは見慣れているし、「かわいいロボット」という子供だましも見慣れている。理屈の上ではそのとおりだが、感情としてはやはり、「かわいいロボット」は強い。

GWにエマちゃんたちとひでまんの実験室にお邪魔した。その実験室は、部屋の四面をプロジェクションマッピングを投影できる部屋で、さらにタブレット端末を使って誰でもそのプロジェクションマッピングのコンテンツを生成できるようになっている。タブレット端末を使ってそれぞれ一通り遊んだあとに、机の上に謎のロボットが登場。

左がその謎のロボット。ニョロニョロのように伸びたり縮んだりする。このロボットと一緒にタブレット端末を操作してコンテンツを選んで生成すると、自分ひとりでタブレット端末を操作してコンテンツを生成するよりも楽しい。はるかに楽しい。

最後に「えいっ!」とロボットが言うと、生成したコンテンツが壁に投影されるのも楽しい。

このロボット、別に役に立っているわけではない。タブレット端末のタッチパネルを操作するのはいずれもユーザーだ。ただタブレット端末の隣で伸びたり縮んだりしながら「ふむふむ」とか「えいっ!」とか言うだけだ。それでも気持ちとしてははるかに楽しくなるのは何なのか。

豊橋技術科学大学の岡田美智男先生は「弱いロボット」として必ずしもとても役に立つわけではないが、人間に必要とされるロボットを提唱している。例えばティッシュを手渡すロボットは、強引ではなく消極的にそっと差し出すことで、人は受け取りたくなってしまうのだという。

産業ロボットに代表される現在市場があるロボットは基本的には「役に立つ」ロボットだが、多くは工場などの管理された空間で働いている。一方で、消費者向けの家庭などで働くロボットは、長く試行錯誤が続けられていながらも、大きな市場として定着していない。現状の技術水準では家庭に導入できるのはルンバのような特化型のロボットと、対話式のコミュニケーションロボットくらいのものだが、コミュニケーションロボットは未だキラーアプリがなく、普及しているとはいいがたい。スマートスピーカーをロボットと呼ぶかどうかは議論があるにしても。

消費者向け・家庭向けで本当に「役に立つ」ロボットの実現には、技術的ハードルが高すぎる。そこを今できる技術水準ということでコミュニケーションロボットと言われているが、それはわかりやすく「役に立つ」わけではなく、ただコミュニケーションをするだけのロボットはなかなか普及しない。そこに、人の感情に訴えかける要素があることで消費者に受け入れられやすくなるのでは、というのは誰でも想像できるし実際いくつも取組事例があるが、アフェクティブ・コンピューティングをうたったJiboの撤退など現実に市場に受け入れられるまでのハードルは高い。

「かわいい」「弱い」はたしかに一時的に人の感情に訴えはかけるけれど、それが市場を形成するまでにはいかない、そのギャップを埋めるには何が必要なのかしら。現状何が不足しているのかしら。