医療AIといえば画像診断支援なのか?
今年3月、オリンパスは「内視鏡分野のAI技術において国内初の薬事承認を得た」とする、AI搭載大腸内視鏡画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN(エンドブレイン)」を発売した。同社の超拡大内視鏡で撮影中に利用し、リアルタイムで「腫瘍性ポリープ」または「非腫瘍性ポリープ」の可能性を数値として表示することで、医師の診断を支援するソフトウェアだ。
EndoBRAINで言う「AI」とは機械学習のひとつであるサポートベクターマシン(SVM)を指す。AMEDの研究費助成を受けた昭和大学、名古屋大学などの共同研究で開発された。約6万枚の内視鏡画像を学習させ、多施設臨床試験で正診率98%、感度97%の精度としている。
医療分野のAIというと、こうした画像診断支援がよく挙げられる。EndoBRAINが使える超拡大内視鏡は大腸内視鏡の検査として一般的に普及しているデバイスではないので影響は限定的だが、がん検診などでも使われる一般的な内視鏡画像診断支援AIへの期待は大きく、薬事承認に向けた研究開発も複数の企業で進んでいる。内視鏡画像の他にも、X線やCT、MRI、病理画像と、画像診断支援AIが活躍するだろうと考えられる医用画像は多い。
今のAIブームで技術的なブレークスルーが起きたと言われるディープラーニング(深層学習)が画像認識に秀でているため、画像診断支援への適用が注目された。
では、医療AIといえば画像診断支援なのか?
AIとは「ディープラーニング」「機械学習」「IT全般」
ところで、AIの話題となると「AIとはなんぞや」問題がいつでも起こるので、ざっくりとAIが何を指しているかをおさらいしておく。現在のAIブームにおいて「AI」が指すものは、狭義には「ディープラーニング(深層学習)」、ディープラーニングを含む「機械学習」を指し、広義には「IT」「デジタル化そのもの」を指すと考えることが多い。これら3点は以下のようにそれぞれの部分集合で表すことができる(図は適当に作ったので面積比に意味はなし)。なお、松尾先生はこれを「IT系」、「ビッグデータ系」「ディープラーニング系」と3分類している。
IT全般というとIT化・デジタル化すればなんでもありになってしまうが、AIブームにおいてはマーケティング用語として「AI」を多用する向きもあり、現実問題としてそうなっている。
「ビッグデータ系」は従来から用いられていた機械学習や自然言語処理を中心とする技術だ。統計や検索、レコメンデーションなどのために従来から用いられてきたが、近年は大量のデータの蓄積とともに有用性が増している。IBMの「ワトソン」、日立製作所の「H」、NECの「NEC the Wise」、富士通の「Zinrai」などのサービスはここに入る。
「ディープラーニング系」は、そのまんまでディープラーニングを用いたものだ。今回のAIブームのきっかけは、ディープラーニングという技術の台頭にある。ディープラーニングとは、膨大なデータから学習し予測を行う技術である機械学習の手法のひとつで、入力したデータからそれらのデータの特徴量を自動的に抽出することでそれを認識したり生成したりするようにするプログラム。同様の技術は以前からあったものの、昨今のコンピュータ性能の向上とデータの地区せきによって一気に有用性が増し、特に画像認識精度は人間の目の精度を超えるほどに飛躍的に向上した。
このうち、大量のデータから学習させる機械学習やディープラーニングは画像認識精度を向上させるため、医療においては医療画像からがんや病変を検出する画像診断支援に有用とされている。2017年6月の厚生労働省「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会報告書」の中で「AIの実用化が比較的早いと考えられる領域」の4領域のうちのひとつとして「画像診断支援」が挙げられ、画像診断支援の開発に向けた研究開発事業がいっせいに立ち上がった。
とはいえ同報告書の中では他に診断・治療支援(問診や一般的検査等)、ゲノム医療、医薬品開発、介護・認知症、手術支援も挙げられたほか、同報告書をまとめた会議の続きの会議が今年6月にまとめた「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム報告書」の中では以下のようにより広範な領域に広がっている。