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「表現の自由」炎上を巡る、大島さんの4分類

 「あいトリ」「宇崎ちゃん」「東大最年少准教授」のネット炎上をして、2019年三大「表現の自由」炎上と、とりとりさん曰く。「表現の自由」とネット炎上が話題になることがここ数年増えたけれど、その内容や「炎上」の種類もそれぞればらばらで、一言に「表現の自由」とか「炎上」とかでくくるのはどうなんだろうか、と思っていたところ、弁護士の大島さんが「表現の自由」炎上の問題を分類されていて、大変興味深かったです。

 昨日、弁護士の大島さん(ばべるさん)の講演「表現の自由と適切な行政手続きを考える」を聞きに行ってきました。大島さんは2009年に弁護士登録、弁護士の仕事を経て2012〜14年に消費者庁で情報公開請求などを担当。今は長谷川法律事務所で市民の行政訴訟などを担当している。「憲法ガール」などの著作でも知られる。

 まず大島さんは、「表現の自由」を巡る2014〜2019年の「炎上」事例を紹介。2014年5月「妹ぱらだいす!2」事件は、2011年の東京都青少年の健全な育成に関する条例改正で追加された近親相姦に関する基準(新基準)が初めて適用され、「妹ぱらだいす!2」が不健全図書指定されたもの。指定によってはゾーニングが義務付けられるだけだが、出版社は自主回収し、Kindleからも削除されるなど、自主規制が起きた。

 新基準適用による不健全図書指定について大島さんが情報公開請求したところ、指定図書を選ぶ都の会議では、「妹ぱらだいす!2」を指定非該当としたメンバが、該当としたメンバを上回っていたが、それにも関わらず会議では「指定該当」との答申をしたという。

 2015年の事例では、三重県志摩市の萌キャラ「碧志摩メグ」問題と、岐阜県美濃加茂市コラボポスター「のうりん!」問題を取り上げた。「碧志摩メグ」は志摩市PRのための公認キャラクターだったが、性的に強調されすぎなどとして批判が集まり、11月には公認を撤回し、以降は非公認キャラとして活動している。一方の美濃加茂市の「のうりん!」コラボポスターは、胸元が強調されすぎなどとして批判され、修正した新しいポスターが作られた。

 2016年は10月に起きた東京メトロの公式キャラクター「駅乃みちか」問題を紹介。萌え絵化した際にスカートが透けているなど批判され、画像を修正する自体となった。2017年7月には「ゆらぎ荘の幽奈さん」のジャンプ31巻巻頭カラーで「露骨なポルノ描写」などとして批判された。2018年3月には研究書である「エロマンガ表現史」が北海道青少年健全育成条例の規定により有害図書類に指定された。学術書の類が有害図書類指定されたことで、物議を醸したという。2018年10月、NHKノーベル賞解説サイトで聞き手役としてVTuberキズナアイ」が起用されたことが批判された。

 大島さんは、「2019年は表現の自由の抑圧が注目された年」として、8月のあいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」問題、10月の「宇崎ちゃん」献血コラボポスター問題、11月の「宮本から君へ」問題、11月の「娘の友達」問題、11月の「秋葉原アダルトゲーム大型屋外広告」問題を取り上げた。「あいトリ」「宮本から君へ」はそれぞれ、公的な助成金が決定または内定していたにもかかわらずそれらが取り消しとなった。「秋葉原アダルトゲーム大型屋外広告」では女性キャラの露出が大きいなどとして都民からの電話申し出があり、東京都と千代田区が実地調査を行い、店舗が自主的に広告を撤去したとされたが、行政過程の不透明さが問題視されたという。「娘の友達」は、アラフォー男性と女子高生の「年の差恋愛」を描く内容が「犯罪を助長する」などとして連載中止を求める声がネット上であがった。「通常問題とされたこなかったこうした作品も問題にされた」と大島さん。

 これらは、問題の内容も性質も異なる。大島さんはこれら「表現の自由」を巡る問題を、「公権力による規制」「公権力による助成の撤回」「公権力による公認等の表示の撤回」「私人による表現物への批判」の4つに分類。これまでの事例を当てはめると以下のようになる。

  • 「公権力による規制」:有害図書指定、屋外広告物規制等。「妹ぱらだいす!2」問題、「エロマンガ表現史」問題。「秋葉原アダルトゲーム大型屋外広告」問題。
  • 「公権力による助成の撤回」:補助金不交付。「あいトリ」問題、「宮本から君へ」問題。
  • 「公権力による公認等の表示の撤回」:「碧志摩メグ」問題、「のうりん!」問題。「駅乃みちか」問題。
  • 「私人による表現物への批判」:「キズナアイ」問題。「宇崎ちゃん」問題。「ゆらぎ荘の幽奈さん」問題。「娘の友達」問題。

 大島さんはこれらの分類の上で、2014〜19年の間に問題パターンが変化、「公権力の直接的な規制が問題になっていたが、今は公権力だけでなく私人にも広がり、また公権力の助成の問題にも広がってきた」と指摘する。2014年は有害図書指定と言う形での、「表現の自由」に対する直接的な公権力規制が問題となったが、2015年には自治体による公認取り消しが問題に、2016年は公共機関が問題にされ、2017年以降は(講談社のような)私的な組織も問題とされるようになった。2019年には助成金不交付のような、受益的行政の問題も発生した。

 講演は、このうち特に青少年の健全育成の観点から行われる行政規制に関する表現の問題でしたが、上記の4分類は興味深かったです。

 ところで、最近は「話題になる」とか「バズる「とか「賛否両論」くらいの意味合いで「炎上」ということが多いようで、「炎上」がインフレ気味になっている気もします。あと自ら「炎上」と称する「自称炎上」も聞くから、「炎上」がマーケティング的な成功を意味するポジティブな使われ方をしているのかしら。