人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

私から見た、デッカイギができるまで

2023年1月6日〜7日に開催した行政デジタル改革共創会議(デッカイギ)は、協賛企業やスタッフ含め約300人(このうち公務員約200人)が参加し2日間の日程を無事終えました。参加者、登壇者、協賛企業の皆様に厚く御礼申し上げます。また何より9月11日のブレストから4ヶ月間一緒に準備をしてきた実行委員の皆様、運営スタッフの皆様に心から感謝いたします。この4ヶ月間楽しかったです。

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togetter.com

 

前日から3〜4日間あまり寝られず元々体力がないので2日間ヘロヘロで乗り切り、その後2日間ほぼ寝倒し(連休でよかった)、平日は(デッカイギ準備と本番のため年休消化して)積んでた仕事をし、ようやくちょっと時間ができたので、自分にとってデッカイギが何だったのか理解するためにもこれまでの経緯を振り返ります。皆さんそれぞれにとってのいろんなデッカイギがあると思うので、あくまで自分にとっての経緯の振り返りです。


1.背景:取材していて普通にしんどい

コロナ禍を契機に行政デジタルを取材するようになりました。中央省庁、自治体、事業者などいろいろな方たちに取材させていただく中で、現実の課題解決のために行政デジタルを進めるそのプロセスにおいて、インセンティブがなかったり利害が衝突したりコミュニケーション上の課題があったりと、ステークホルダー同士の関係性の課題が前へ進める壁になっていると感じることが多々ありました。取材していて普通にしんどい。

たとえば、同じ案件について、デジタル庁のAさんとB自治体のCさん、D自治体のEさんの話をそれぞれ伺った時、同じ案件なのに全然異なる事実認識や意見がそれぞれ出てくることはよくあることです。でもよく聞くと、それぞれがおっしゃることはわかるし納得する。それぞれ目的が違うとか、問題や事実の認識が違うとかで、噛み合わないこともある。ただ、ちょっと目的設定を調整して、お互い同じ方向を見るようにしたら、きれいに回りだすんじゃないかなと思うこともあります。

自治体システム標準化、ガバメントクラウドへの移行、公共サービスメッシュなど、行政デジタルでは困難だがやらないといけないことが大量にあり、その背景には2040年問題があります。そもそも、行政デジタルにしても現実の課題をどう解決していくかというのは、ITの技術だけではなく、法制度、政治とのバランスの中で前へ進みます。デジタルだけでは課題解決になりません。それらはそれらのアクターである様々なステークホルダーが足並みをそろえて課題解決に向かわないと進みません。

なぜ、行政デジタルがうまく進んでほしいか。個人的な理由もあります。

特に長生きしたいわけではないけれどいろいろ図太い長寿家系なので普通に生きているとあと80年くらいは生きそうな自分としては、今後社会保障制度はじめとした行政機能の現状レベルの維持が全く期待できない絶望的な未来をちょっとでも楽しく生きるために、ちょっとした希望を行政デジタル改革に託している面もありました。普通に楽しく生きたい。

2.目的:解決策としての「安心して炎上できる場」を作りたい

話を戻して、行政デジタルを進めるアクターであるステークホルダーのコミュニケーションの問題があるとして、その解決には、ステークホルダー同士の信頼醸成をどうしたらいいのかなと考えていました。そういうときに頭にあったのが、エマちゃんとよく言っていた「安心して炎上できる場」です。

安心して炎上できる場とは、異なる利害を持つステークホルダーが、心理的安全性を確保して、攻撃的にならずに、相手に敬意と信頼を持ってわいわいできる場で、ちょっとヤバイ話でも突っ込んで議論して、じゃあどうしたらおもしろくできるかね?どうしたら解決できるかね?っていう話をみんなでできる場のことで、エマちゃんと勝手にそう呼んでいました(最初エマちゃんは闇鍋会とか呼んでたけど、たぶん鳴海さんだったかが安心して炎上できる場というようなことをポロって言ってそれいただきとなった記憶)。AI倫理みていくうえでそういう場を作りたいということでエマちゃんとは考え方が一致していて、安全保障とAIとかディストピアとかでセミクローズドの勉強会やWSをコロナ前はよく一緒にやっていました。

異なるステークホルダーが一緒に何かに取り組むとき、たとえその全体の方向性の目的が合意されても、進める中で利害や意見の衝突は当然起きます。それぞれの利害や目的がちょっとずつズレるのは当然なので。そうしたときに、全体の目的遂行のために、お互いの信頼があれば、どこか落としどころを探ろうという作業が進めやすくなります。

ただその信頼は何もしなくて最初からあるものではなくて、何かを一緒に進めながらとか、腹割って議論しながらとかでお互いに確かめながら徐々に構築されてくるものです。そういう信頼構築のとっかかりやきっかけになるような安心して炎上できる場を、行政デジタル改革でも作れないかなと思いました。


3.経緯その1:とりあえず飲み会をする(2021年9月〜2022年春頃)

1.2.で書いたようなことを、デジタル庁ができた2021年9月から春頃までいろんな人に話したり、FBやTwitterに書いたりしていました。ただ最初は全然具体的なイメージはなくて、2021年1月~2月頃に一瞬流行っていたClubhouseで江口さんや楠さん、庄司先生、自治体の方たちと夜な夜な自治体DX雑談をしていたことがあり、あのときの空気良かったなーとかは思っていたくらいでした。

コロナの行動制限下だったので大人数がリアルで集まるのは難しく、2021年秋くらいに制限が解除された時期があり、その頃から何人かに呼び掛けて自治体DX飲み会をするようになりました。毎回江口さんとチャットしていると自治体DX飲み会やろうかとタイミングが決まっていったので、勝手に江口会と呼んでいましたが、下戸で全く飲めない自分がなんとなく幹事をやっていました。毎回、基礎自治体都道府県、中央省庁、民間がメンバーに入るといいなと思いながら主に取材で知り合った方たちに声をかけていました。このころ江口会とは何かを書いたメモには「マルチステークホルダー対話、異なる利害関係者が一同に集まって対話する、大きな共有できる目的を置く、共有できる課題は何か、対話によってその課題解決の糸口をつかめるか」と書いてありました(メモ魔なので)。ただの飲み会なんですけど、デッカイギで作りたかった場のモデルのひとつと個人的には思っています。結果的に、この頃の飲み会メンバーや飲み会での話題がデッカイギにだいぶ反映されています。


4.経緯その2:真岡と白浜へ行く(2022年春頃)

4月初め、自治体、デジ庁とか中央省庁、ベンダーやアカデミアや法曹とかがちゃんと情報共有して議論できる場作れないか江口さんに聞いたところ、自治体DX大宴会だ、白浜などセキュリティ温泉シンポジウムみたいなのと提案されました。このころ企画書を何度か書いていて、江口さんに見てもらっていました。

それで5月末に白浜に行ってみたのと、5月中旬には虎の穴の真岡の陣があり、遠藤さんに声をかけていただいたので行ってきましたが、これがよかった。この2つが自分がデッカイギでどういう場を作りたいか考える上でだいぶモデルになりました。

ちらっとそんなことを書いたのがこの記者の眼。

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あと真岡ではこういうのやりたいと皆さんに話してご意見もらいまして、大変ありがとうございました。

同じくこのころ、千葉さんはじめ自治体の方たちに声をかけて、自治体DX大宴会?で「こういう企画なら聞きたい」という企画案を上げていく会をZoomでやりまして、そこで出てきてメモっていた企画案はデッカイギの企画の元ネタになっていたりします。

4月にはC4IRJのスマートシティのクローズドオフラインイベントがあり、自治体DX大宴会やりたい熱がさらに増しました。取材に誘われて行ってみたところ、コロナ以降初めてだった100名規模リアルイベント参加ということもあり、大変有意義な時間で、対面で情報交換や意見交換をすることと、それによる信頼醸成はオフラインイベントでないと得られないという当たり前のことを確認できたためです。当たり前なんだけどコロナで対面イベントがずっとなかったので忘れていました。

なお、自治体DXのステークホルダーがみんな集まる場をどう作るかで、4月初め、まず自分が会社の仕事としてできないかは一応考えました。自治体IT関連のイベント事業をしている社内のチームとその上長(元上司)に相談しました。今の会社に来る前の前職場では業務外で仲間たちとやりたいとなったことを業務としてやるというのが割とやりやすかったので(担当役員に感謝)それくらいのつもりでいましたが、会社変わるとまあそうはうまくいかないなと。いろいろあり、自分が会社の仕事としてやるのは違うとなりました。ということで、しばらくどう実現するかでいじけ期間がありました。

ただ真岡や白浜が非営利の実行委員会形式で運営されていたこと、会社のような営利事業では真岡や白浜のような場を作るのは難しいかなーと思ったことから、非営利の実行委員会形式が落としどころだと思っていたので、その頃からDGLに事務局をお願いできないか千葉さんと遠藤さんに相談していました。

5.経緯その3:リブートのブレストから実行委員会が稼働する(2022年9月〜)

8月末、自治体システム標準化を見ていて、デジ庁と自治体がどうやったらうまく進むかと江口さんに愚痴っていたところ、温泉WGリブートしようとのことで、一方で、標準化など自治体DXのステークホルダー基礎自治体都道府県、中央省庁、地域ベンダー、クラウドベンダー、国内大手ベンダーなど多岐にわたり、これらみんなが共有できる共通の目的や一緒に目指せる腑に落ちるものが何かわからずもやもやしておりました。

そんなもやもやをツイートしていたところ、楠さんからブレストをやろうとリプをもらい、ようやく背中押してもらった気がして、前述の飲み会で声をかけていたメンバーに声をかけて9月11日、なぜかベトナムフェアをやっていた神奈川県庁の江口さんの部屋に集まりました。結果的にそれがデッカイギのキックオフになりました。

その日はゆるくコンセプトと2023年1月に開催するということ、場所は神奈川県あたり、実行委員会主催、実行委員長は庄司先生、事務局はDGLということと今後のタスクが決まりました。次のMTGでコンセプト、タイトルが決まり、その後毎週定例MTGで準備を進めていきました。企画運営メンバーはゆるく、それぞれで声がけをするなどして10月にかけてゆるゆると増え、何となく実行委員として名前が外に出ても問題ない人たちがサイトに出ている実行委員になっていますが、それ以外にも複数の方たちが、定例参加や色々企画運営携わっていることは申し添えておきたいです。実行委員はじめ企画運営に携わった皆さんは皆ボランティアの有志です。

準備で私が一番やり取り多くお世話になったのは三島さんで、自分ができないことが三島さんができることが多く、一緒に作業していると大変安心感がありました。準備期間実質4ヵ月、色々大変で自分全然足りていないところがたくさんあり、きっと色々ご迷惑おかけしたと思うのですが、なんか楽しかったです。書いてると走馬灯のように色々思い出してきて色々書きたい。。。

6.企画運営で個人的にこだわったところ

・安心して炎上できる場をどう作るか

信頼醸成のためにも心理的安全性確保して情報交換や意見交換できる場作る(かつ可能な範囲で多くの人との情報共有の両立)のは結構こだわって、公務員、民間企業、メディアの入室制限やチャタムハウスルール、撮影・SNS共有ポリシー、報道ルールなどを作るときに結構気を使いました。これらは事前に旅のしおりをつくったり、サイトに掲載して共有したほか、当日のオリエンで周知しました。

www.dekaigi.org

・主催者企画

といいつつ信頼構築のための場といっても人は集まりません。なので、ホールでの主催者企画は、「みんな(=主に基礎自治体職員)が聞きたいと思えるコンテンツ」「主催者として伝えたいこと(公共サービスメッシュとかビヨンド2025とか)」のバランスを気を付けました。特に前者については春のZoomの時のメモや千葉さんや村越さんの意見もとにたたき台をまとめて定例会議でたたいてもらいました。あとどうしてもここでやりたかったけれどなんかすごい調整大変な(主に千葉さんが、千葉さんに大感謝)企画もありましたが、実現して本当によかった。

他も色々あるけどとりあえずこの2つ。

7.雑感

やりたいやりたいってしつこく色んな人たちに言い続けていると、同じこと考えている人たちが見つかって、彼らと一緒にみんなで頭と口と手足を同時に動かしているとなんか実現するんだなということがわかりました。というかみんながすごい。

ぼやき:記者は常に客観的な位置にいないといけないという刷り込みが強くて、会社の仕事外で取材先みなさまとなにかやりたいと思ったときに、これは職業倫理上大丈夫なのか不安もあり、当事者の中にまじることへの引け目や申し訳なさがずっとあります。今回会社業務外の個人の趣味活動(なので作業は夜と週末、年休)と割り切って、いち個人として企画運営をしていましたが(会場でネームホルダーに名刺を入れていなかったのと、オンラインとかでのもともとの知り合いなどで相手から名刺交換求めらる場合を除き、自分から名刺交換しなかったのもそのため)、自分は運営側で記者としての参加ではないといっても会場にいる皆さんは記者としての自分を知っている人もいるので、「メディア不可」のセッションでは別室での役務を自分に割り振ってその部屋には入室しないようにする(あるセッションは諸事情で部屋から出られなくなり部屋内にいましたが)とか、ずっと自分の立ち位置悩みながらやっていました。人工知能学会倫理委員会委員の頃からエマちゃんたちといろいろやるようになって、科学技術社会論の研究者として対象の中に入り込んでいくエマちゃんと一緒にいて、ちょっと外の人間として当事者に交じることへの抵抗感が昔よりは少し軽減しましたが、私は公務員でも事業者でもなく、行政デジタルの当事者でないという引け目や申し訳なさはずっとあります。この中で自分なにもんなんだろうなっていう。やりたいやりたいと言いながら公務員でも事業者でもない自分がやってはいけないのでは引け目があり尻込みしていたのが、自分で手足動かせ(と言われた気がする)と江口さんに蹴飛ばされたおかげで結果的に手足動かさせてもらった気がします。

(準備とか当日運営とか反省点・改善点とか次やりたいこととか、書きたいことは山程ありますが、とりあえず実現の経緯まで。。。)

なお、デッカイギができるまでの自分にとっての経緯を書くことにしたのは、他の実行委員メンバーに、なぜ実行委員やってくれたか、何の解決になると考えたか、どういう課題を抱えていたかをインタビューしてまとめてほしいと江口さんに言われたことが契機です。皆それぞれ抱えている課題やその解決への緒としてのデッカイギの目的がちょっとずつ違うはずで、個人的にもそれらを可視化したいという興味と動機があります。仕事じゃなくて有志でボランタリーでしかも結構やることあって大変でやったことないこと試行錯誤してやるのに、皆どういう動機と期待することがあってやってるのかなと。で、それは達成できたのかなと。

一方で、どう聞くかどう書くか考えていたときに、普段の仕事のように読み手が面白いと思う記事を書くためにどうすればいいかわからなくなりました。デッカイギの企画運営が自分にとって思い入れが強く、(公務員当事者でもないのに)当事者性がとても高いため、普段のように第三者として客観的に俯瞰して書くことはできそうにないなと。煮詰まってにっちもさっちもいかないので、とりあえず自分が経験してきた経緯を記録して、それから考えようと思った次第です。さてとりあえず吐き出したので聞いて書けるかなあ。。。メディアってなんなんだろなあ。。。