人間とテクノロジー

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ITで社会経済構造が変わる20年後の働き方を検討する厚労省の会議がおもしろい

 1月末から始まった、20年後の働き方に向けた検討会「働き方の未来2035」がおもしろい。14人の外部有識者メンバーが議論を重ね今夏までに、IoTや人工知能(AI)など情報技術の発展による社会経済構造の変化に合うように、労働法改正を視野に入れた政策提言を行う。

 検討会のメンバーは、若手起業家や会社経営者、労働法の専門家、経済学者、ジャーナリストなどからなり、「20年先にも現役で働いている人がメンバー」(塩崎恭久厚労相)ということで、平均年齢は42.7歳。一般にこういった役所の有識者会議のメンバーは50〜60歳代が多いので、この平均年齢は極めて異例だ。

 現状の産業構造は、製造業を中心とした労働集約型産業がメインという考え方に基づいて労働法はつくられている。ところが、ここ30年で非製造業の比率が伸び、今後も情報技術の進展に従って、産業構造や働き方そのものが大転換するとされている。

 おもしろいのは、メンバーにAI専門家で東大准教授の松尾豊さんが入っている点だ。AIの研究者と労働法?いや、不思議でもなんでもない。そもそも、AIなどの情報技術の進歩が、20年後の働き方を考えるためのスタートラインにある。

 昨今「AIが雇用を奪う」といった議論が活発だ。変化を嫌がる人たちからみたら「雇用を奪う」ということになるが、本質は情報技術の進歩によって産業構造が転換し、仕事の内容や働き方が変わっていくということだろう。

 それにともない、社会経済を下支えする国家システムもまた変わる必要がある。ところが、法律とそれにもとづく政策による国家システムはそんなに柔軟ではない。これまでのしがらみやステークホルダーもある。そもそも、政治も行政も目の前の短期スパンでしかものごとを見ていない。

 そこで、直近ではなく20年後という先のビジョンを打ち出し、それに向けて出来ることを進めていくというスキームがこの「2035」だ。長期ビジョンの作成では、しがらみやステークホルダーからも開放される。

 実は、厚労省では同様のスキームで、医療政策の提言を行うための検討会を昨年実施している。「保健医療2035」として、昨夏に100以上からなる政策提言を行った。その後、提言を実行にうつすために省内ではタスクフォースが進んでいる(ちなみに昨年夏の報告会のレポートとハフポストに書いた)。

 保健医療2035は塩崎厚労相トップダウンで始まったというが、今回の働き方の未来2035は、厚労省から「保健医療2035のように働き方も検討しよう」という声が上がりボトムアップで始まったと聞く。

 検討会はオープンに開かれ、事前に申しこめば誰でも傍聴可能だ。2回目となる次回は24日午後に開かれ、「AIの技術革新の進展による社会への影響について」とした、検討会メンバーで東大准教授の松尾豊さんによるプレゼンなどがある。私はもちろん傍聴に行きます。