科技メモ

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科学技術研究のデュアルユース

 科学技術を取材する立場からここ数年の大きなアジェンダのひとつが、科学技術研究の民生利用と軍事利用のデュアルユース(両義性)だ。いくつかあるが、大きく注目をあつめるきっかけとなったのが、昨年度から防衛省が始めた、大学などのアカデミアの研究を対象に研究費助成を行うファンディング制度だ。

 そもそも、アカデミアの研究は政府予算(科学技術予算)から捻出される。ここ20年ほどは、基盤的経費である運営費交付金を減らし、研究の「選択と集中」をはかることで成果をあげようとする競争的資金が増えている。これまで科学技術予算を出す省庁は、文科省経産省厚労省などで成果の民生利用が明確だった。

 ところが防衛省のファンディングとなると、民生利用ではなく軍事利用(もっとも「軍事」の定義はそれだけで歴史を遡り大量の議論がかわされるほど論争的だ。「防衛」は平和目的なので「軍事」ではないという意見もあるが、納得のできる意見だろうか)が視野にはいる。

 そこで、アカデミア内でもメディアでも議論が活発になってきた。

 今年の大きなトピックスは、日本学術会議が5月に設置した、安全保障に向けた研究を議論する検討会の動向だ。日本学術会議とは内閣府の組織で、最近では予算も少なく影響力と求心力を失っているが、かつては「科学者の国会」と呼ばれたように、アカデミアを代表する存在だった。

 その日本学術会議は、1950年と1967年にそれぞれ声明を出し、軍事研究の禁止をうたっている。戦時中、科学者や技術者が戦争のために研究開発を行った科学技術動員の反省から、戦後のアカデミアは、軍事研究反対の立場を取り続けてきたのだ。

 日本学術会議が検討会を設置した大きな理由は、前述の防衛省のファンディングだ。アカデミア内では、応募の是非を巡って混乱が生じた。報道各社が大学などを対象にしたアンケートでは、そもそも軍事研究に対するルールがなかったり、立場が明確でなかったりするところが多く、対応がわかれた。新潟大学琉球大学のように、防衛省のファンディングが始まり、軍事研究禁止のルールを新たに定めた大学もあった。

 そこで、日本学術会議が、今あらためて軍事研究(という単語は使わずあくまでも「安全保障のための研究」)に対するアカデミアの在り方について議論を進めるというわけだ。

 写真の池内了さんの「科学者と戦争」はそのあたりの昨今の状況を踏まえた上で書かれ、先月出版された。歴史を遡り、科学者と軍事研究のあり方について述べられている。池内了さんは昨年の安保反対デモなどを行った「学者の会」にも参加をするなど、リベラルな活動を展開している物理学者だ。