人間とテクノロジー

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自閉症スペクトラムの視覚世界を体験するVR

 自閉症スペクトラムASD、広汎性発達障害)は発達障害の一種で、対人交流とコミュニケーションが苦手で、自分の関心やペースを優先させがちなのが特徴だ。自閉症アスペルガー症候群などもここに含む。

 ASDは社会性の障害と言われるが、最近の研究では、知覚の障害もあると言われている。知覚過敏や知覚鈍麻、音の聞こえ方やものの見え方が異なるといった、感覚の特徴が見られ、知覚・運動情報の処理が、定型発達者とは異なる可能性があるという。

 社会性と知覚には密接な関係がある。周囲の音に過敏になることでパニックを起こす、知覚過敏によって人に触れられるのが苦手になるといった具合だ。

 そこで、大阪大学の長井志江特任准教授らは、ASDの人たちが見ている世界を再現して体験するVRをつくった

 開発にあたり、ASDの人たちに、ものがどのように見えているか、画像を提示してそこから選んでもらい分類をした。その結果、明るさによってはコントラストが強調されやすい、視界に入るものの動きによって不鮮明化や無彩色化されやすい、動きや音の変化に伴い、砂嵐状のノイズが現れることがある、といった特徴がわかったという。

 昨年、この研究領域のイベントで、ASDの人の視覚体験をするVR体験をしてみた。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を被って周囲を見渡すと、水玉が表示されたり、ノイズがかかったりといったエフェクトがかかって表示された。

 このVRシステムは、当事者にとって役立つ支援を周囲がするための理解、また当事者が自分に起こっていることを理解するという意義があるという。

 ただ、短時間というのもあるが、HMDを被って体験してみても、これが実際にASDの人の視界体験をしているという意識が得られなかった。まず、ASDの人と言っても人それぞれで知覚は異なるだろうと思ったこと、それとイベントで一時的にHMDを被って体験するのと、日常の中での知覚は全く異なるという思いが自分の中にあるからだろう。

 VRで他者を体験する、というのはVRの大きな可能性だが、その体験者の「思い込み」をうまくハンドリングできないと、本当に他者の理解のための体験はできないのではと思った。ただ、その「思い込み」をハンドリングできれる、それだけで他者の体験理解という目的は達成できるのではとも思う。視覚情報が人の認識にもっとも強く影響を与えるというのはわかるのだけれど。