人間とテクノロジー

人間とテクノロジーについて、人と話したり、議論したり、思ったりしたことの備忘録

2016年に書いた記事振り返り

2016年は記者(週刊朝日編集部)から編集者(医療健康編集部)になり、また記者(AERA編集部)に戻るという慌ただしい1年でした。分野も、週朝では政治から経済からなんでもやっていたのが、医療健康編集部では医療や医学部、医師が対象、AERAでは医療や科学技術系(とはいえなんでもやるけど)と部署ごとに変化がありました。あと他媒体でのお仕事も少しずつさせて頂いてありがとうございます。科学技術や医療は10年近くずっと取材してきているので、書ける場があると、たくさん書きたいこと書くべきことが出てきます。

起こっているファクトを取材して記録して伝わるように記事にするのが、新聞時代からやってきた記者の仕事。それに加えて、何を取材して書くべきかというアジェンダ設定に対してより自覚的になってきたのがここ数年で、その点では去年よりは今年のほうができるようになってきたように思います。

一方で、取材して書く、というだけでなくそれをもう少し推し進めて、形がないところから取材先も含めてみんなで一緒につくっていくという仕事は、新聞社を辞めた時からずっとやりたいと思っていながらなかなかできていません。つくっていく、というのは記事やメディアそのものというよりもっと大きな、メタな考え方とかあり方とか概念とかシステムとかなのかなあ。ぼやっとしていますが、その具体化も含めて、来年の課題です。来年のテーマは「定点観測ブイかつ船になる」。

印象に残っている記事のうちネットで読めるものをいくつか。週刊朝日AERAは紙媒体とウェブでは見出しが違うし、ウェブでは記事全体が読めないものもある。ややこしい。

直撃アンケート一挙公開 “サボリ”衆参議員65人全リスト (週刊朝日)
NPO法人「万年野党」が毎回集計している、国会議員の質問回数、議員立法発議数、質問主意書提出件数の調査をもとに、それらがすべてゼロの議員全員にアンケートを送った上で、何人かに取材に行ってつくった記事。

内閣官房参与・浜田宏一が安倍政権へ警告「損のリスクも国民に説明を」(週刊朝日)
→お話を伺いたかった浜田先生のインタビュー記事。クルーグマンとの共著の本も参考になったし、マクロ経済への勉強熱が高まったインタビューでした。

世界に遅れる日本の「人工知能研究」のお粗末(Forsight)
→Forsightに初めて書かせてもらった記事。読者層や他の記事とトーンが違うので科学技術系は読まれないかなあと思っていたら、結構読まれていたということで、人工知能ブームということはあるけれど少し自信になりました。

ロボットが介護する日がやってくる 歩行を支援してリハビリ 腰痛予防の装着型ロボット (週刊朝日)
→60歳以上という読者層を意識したロボット記事。ロボットやAIといったテクノロジーは新聞時代から取材してきたけれど、媒体によって読者対象や媒体の特性が違うので、同じことを同じように取材しても全く違う記事になることを意識してつくりました。

空間知覚をハックして、狭い室内を無限にまっすぐ歩き続ける「無限回廊」VR(WIRED)
→昔からお世話になっている研究室の成果で、ツイッターで稲見先生がつぶやいているのをきっかけに取材に行って書いた記事。

数学者と医師が語る、医療ビッグデータの活用法(Meet Recruit)
→記者レクで聞いた河原林先生の林と、勉強会で聞いた木村先生の話が、違う分野にいながら同じ問題意識を抱えていて、この2人が話しているところを字にしたいなあと思って実現した企画。

ところで、記事になるならないは別にして、この人とこの人をくっつけたらおもしろそう、と思ってくっつけてみるということがとても多いこの1年でした。来年はそれを何らかの形(記事以外でも)にできるといいなあ。そこに自分がどう貢献できるか。

菊乃井店主とVR研究者が語る、和食の未来を作るテクノロジー(Meet Recruit)
→上記と同じ理由で記憶に残った記事。

ケヴィン・ケリー氏が語る、VRとAIがもたらす「必ず来る未来」(Huffinton Post)
→師匠・桂さんが翻訳したKKの新刊「〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則」イベントのレポート。KKのお話聞くのは、「テクニウム」で来日された時から2回目。尊敬する好きな人たちから日々刺激を受けて生きています。

お手上げ医師助ける人工知能 遺伝子を調べてがんを特定する(AERA)
→「医師・医学部特集」の中で書いた1本。それを人工知能と呼ぶかどうかは別として、医療現場でのIT導入はすでに確実に来ている流れで、それが医療制度や医師のあり方の変化に大きく関わるのでこの所よく取材しています。

10年遅れの男社会だ 女医の3割が結婚・出産などで離職 (AERA)
→これも「医師・医学部特集」の中の1本。ジェンダー関連の記事を書いたのは初めてかもしれない。科学技術や研究者の世界においてもこれも避けて通れない流れ。女性に限らず働き方やダイバーシティは、アカデミアにしろそれ以外にしろちゃんと見ていきたい。

「役に立つ」より「面白い」 ノーベル賞の大隅良典さんが問題提起(AERA)
ノーベル賞受賞が決まった時の記事。記者会見での私の質問に対して答えてくださった大隅さんの言葉からふくらませていって、この形の記事になりました。ちなみに直後の個別インタビューの日程を一旦確定させたあと潰した東工大の広報に対しては信頼ゼロになりました。

抗不安薬 処方箋でも薬物依存 あくまでも”補助”(AERA)
→「薬特集」の中で書いた1本。精神科医療は8年くらい前から取材している分野で、また最近集中的に取材しようと思っています。

「軍事研究」解禁 民生を追う防衛 防衛予算での大学研究、戦後70年目で転機(AERA)
→「自衛隊特集」の中で書いた1本。安全保障研究もしくは防衛研究と大学に関しては、SCHAFTの人たちを取材していた2013年頃から興味を持っていました。しばらくまだ見ていきます。

世代間格差で劣化する研究 研究費獲得競争と任期付き雇用で疲弊する現場(AERA)
→「大学特集」の中で書いた1本。若手研究者、大学、研究費、この問題もここ数年悪化する一方なので、憂いているばかりではなく、かといって書いていくだけでなく、どうしたらいいのかなあともやもやとしています。

最初の国会議員アンケートの記事について捕捉。与党議員が質問しないのはあたりまえ、というのは国会提出前に政調とか与党内ですでに調整がついているからなのだけれど、派閥が弱くなると与党内の多様性がなくなりしっかりした議論ができないまま国会に出されているという話です。政治部記者にとっては当たり前すぎて(でも国民にとっては当たり前じゃない)取材もしない話だけど、表に出ている数字からみていくと一連の流れが可視化されて、伝えられることがあるんじゃないかと。

データをよく見て、それを元に色んな人に取材していくと「そういうもの」と思われているが、「本当にそれでいいの?」と見えてくることがたくさんある。政治じゃなくても政策にしろ医療にしろ、こういう仕事をしっかりやっていきたいというのも来年の課題。新聞時代の師匠が医療記事で年末にすごく良いお仕事をされていたのを見て改めてそう思いました。

ところで去年から委員をやっている人工知能学会倫理委員会も、今年は6月の人工知能学会全国大会でのセッションと倫理綱領案の作成と、大したことはしていないけれど、少しは貢献できたような気がします。年明け1月には倫理綱領を確定させて公開まで持っていければ一段落。

個人的には倫理委員会の取り組み自体が、科学技術社会論STS)界隈で最近よく言われている「責任ある研究イノベーション(Responsible Research and Innovation, RRI)」の具体例になるのだろうなあという点に関心があります。このあたり、倫理委員会に限らずもう少し考えて何かまとめられるといいなあ。

それと、記者とメディアそのものについても、考える点は多く、情報流通がネットが中心になりつつある中、紙中心のこれまでの報道メディアの記者や記事のあり方も変わりつつあります。welq的な内容が不正確という点で質は低いが読みやすく消費されやすい記事のあり方、ウェブライターのバズらせるあり方は、あまり好きではありません。でも、ウェブで読まれるのはそういう記事。

特に医療や科学技術、研究者の分野ではそのような記事やメディアのあり方がよいとは思えない。ただし、読まれなければ、ないのと同じ。とにかく手を動かしながら考えるしかないのかなあと。。来年はウェブで読まれることをもう少しは意識しつつ、でもあんまり迎合しても良くないし、バランスを見ていければと。

今年を振り返ると、来年の課題がたくさん見えてくるけれど、来年の目標はまた年明けに書こう。