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COVID-19治療薬候補まとめ:米国はクロロキン、ヒドロキシクロロキン、日本はファビピラビルに注目

先週末、日本感染症学会が開催した第94回日本感染症学会学術講演会をオンラインで聴講していたんですが、治療薬候補の現状が興味深く、少し調べたらJAMAが4月24日に出したレビューPharmacologic Treatments for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)に米国の状況もまとまっていたので、お勉強がてらCOVID-19治療薬候補を以下でまとめます。

現時点ではCOVID-19治療薬はありません。一方で、既に他の疾患の治療薬として承認されている薬に効果が見られることを期待し、複数の薬が治療薬候補として、人道的投与または臨床研究、臨床試験などの形で投与されています。

米国では3月28日にFDAが抗マラリア薬のクロロキンとヒドロキシクロロキンを適用拡大としてCOVID-19治療に緊急使用許可を出していますが、副作用が強く、4月24日には副作用への注意喚起を発表しています。日本国内ではCOVID-19治療薬として承認されたものはありません。ファビピラビル(アビガン)は日本で開発されたものということもあり、国内の報道ではよく話題になります。

以下は日本感染症学会の聴講メモ(↓から続くスレッドでメモとっていた)と、JAMAのPharmacologic Treatments for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)「COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第 1 版 (2020年2月26日)」(日本感染症学会)を参考にしています。JAMAのレビューはSARS-CoV-2ライフサイクルと治療薬候補の作用機序を示したFigureが大変わかりやすく、これを見るだけで治療薬開発のストラテジーがだいたい理解できます。便利。(臨床研究結果とかは調べればペーパー出てくると思いますがめんどくさいしどんどん出てくるので省略)

なお薬の記載順は主に感染症学会での川名先生と土井先生の講演を元にしていますが、JAMAのレビューではクロロキンとヒドロキシクロロキンが最初に出てくるとか、違いがあるのも興味深いです。米国では4月2日時点でCOVID-19関連の診療試験は291本走っているとのこと。

ロピナビル・リトナビル

  • 商品名:カレトラ
  • HIV-1に対するプロテアーゼ阻害剤。15年前頃に抗HIV薬として広く使われ、当時発生したSARS治療に使われた
  • 臨床研究・臨床試験・治験:中等症〜重度を対象の無作為試験の報告では有意差なし(中国)

ファビピラビル

  • 商品名:アビガン(富士フイルム富山化学
  • 抗インフルエンザ薬(新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症)として承認。RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬
  • 安全面では、催奇形性、高尿酸血症、肝機能障害
  • 臨床研究・臨床試験・治験:
    • 中国から2本あり。ロピナビル・リトナビルとの非無作為割付試験(80名)→有意に早期にウイルス陰性化、CT有意に改善→論文一時撤回後に再掲載(理由未提示)。もう1本も中国からプレプリント。ウミフェノビルとの無作為割付(240名)→臨床的改善は有意差なし、発熱と咳は有意に改善。
    • 国内では臨床試験進行中で有効性示されていないが、観察研究進行中。全国200施設参加。オンラインサーベイ。中等症(酸素投与あり)以上の人に使われている。観察研究では投与患者の属性や予後俯瞰できる点で有用だが、非投与患者との比較行えないこと、他薬剤との併用多いため有効性評価は難しい。
    • 国立国際医療研究センターでのファビピラビル特定臨床研究う(3/2〜)は軽症例でも鼻咽頭咽頭のウイルス量は多いためファビピラビル投与でウイルス量減らせるか調べるのが主目的。陽性社の通常投与群(43例)、遅延投与群(43例)のRCT。進捗今のところは半分くらい。

シクレソニド

  • 商品名:オルベスコ(帝人ファーマ)
  • 気管支喘息の治療薬(吸入ステロイド薬)。抗ウイルス作用と抗炎症作用を兼ね持つ可能性。森島研究班、国立感染症研究所 松山州徳ら。
  • 臨床研究・臨床試験・治験:感染症学会症例報告中間報告では全国24施設85症例。国際医療研究センターで特定臨床研究進行中。

ナファモスタット、カモスタット

  • 商品名:フサン(日医工)、フオイパン(小野薬品)
  • 膵炎治療薬。
  • 臨床研究・臨床試験・治験:東大医科研でvitro→臨床試験

レムデジビル

  • 国内承認なし
  • エボラ出血熱治療薬として開発。RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬
  • 臨床研究・臨床試験・治験:国際共同治験。大曲先生ら。中等症以上患者53人(うち34人人工呼吸管理、ECMO)の人道的投与で68%酸素化改善、13%死亡。全世界対象の前向きランダム化試験3本進行中
  • 中国・武漢、米国で試用。

クロロキン、ヒドロキシクロロキン

  • 商品名:プラケニル
  • マラリア
  • 臨床研究・臨床試験・治験:
    • 論文は中国から1本、患者30名で無作為→有意差なし。
    • 米国などで100以上の前向きランダム化試験進行中
  • 副作用:眼障害などあり。
  • 米国:FDAがCOVID-19への適用拡大を承認するも、副作用について警告。米国では第一選択薬として投与。投与量難しく副作用で死亡例あり。

その他

トシリズマブ(アクテムラ)、メチルプレドニゾロンなど

治療薬はどうなるのか

先日の感染症学会の講演では、以下の森島先生のコメントが印象的でした。