ゲノム編集でがん治療の治験へ、NIHが初承認

 狙った遺伝子を簡単に改変できる技術が「ゲノム編集」だ。ここ数年で急速に広まっている。そのゲノム編集を、人の病気の治療に使う初めての臨床試験が、米国で始まる。がんの治療として、本来人が持っている免疫を活用するがんの免疫療法として、米NIHが臨床試験の計画を承認した。ペンシルベニア大学が今年中に実施するという。

 がんの免疫療法では、血液中にあるT細胞と呼ぶ免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を利用する。患者のT細胞のいったん取り出してゲノム編集を施すことで、がん細胞を攻撃する力を高め、再び患者の血液に戻す。

 今回実施する臨床試験では、安全性を確認するのが目的なので、どの程度の効果があるかは評価しない。一般に、臨床試験は安全性の確認をしてから(Phase1)、効果の確認(Phase2)、最適な用量の選定(Phase3)という流れで行う。

 ゲノム編集は、遺伝子組み換え技術のひとつだ。遺伝子組み換え技術そのものはこれまでもあったが、誰でも扱えるわけではない上に、正確な遺伝子改変ができなかった。

 一方、ゲノム編集では、狙った1遺伝子から遺伝子の破壊や挿入を正確にできるようになった。現在使われているゲノム編集は第三世代と言われ、CRISPER/Cas9という手法で複数の狙った所の遺伝子を改変することができる。2013年1月にこの手法が開発され、誰でも扱える簡単な手法ということで、一気に注目を浴びた。開発者はノーベル賞を受賞するのでは、とも言われている。

 扱いやすい技術のため、その用途には懸念も多い。最初に使われるようになったのは、遺伝子組み換え食品といった植物への応用だ。モンサントなど大手種苗メーカーでは、すでに商品にゲノム編集を施しているとも言われている。ちなみに、タイトル上の写真は、ゲノム編集でつくったトマトだ。筑波大が研究をしている。

 だが本丸は人間への応用、病気の治療だ。そこで初めて今回、臨床試験として人の細胞でのゲノム編集が行われることとなった。

 ゲノム編集の議論は、人間そのものの改変が可能なところにある。受精卵や生殖細胞にゲノム編集を施せば、生まれてくる子供の遺伝子を自在に操作できるということだ。デザイナーベイビーの誕生というわけだ。

 人の受精卵をゲノム編集で操作をしたという研究は、昨年4月に中国の研究チームが論文発表をしており、話題になった。掲載されたのは「プロテインド・セル」というオンライン論文誌だが、NatureやScienceに投稿したが倫理的な理由で却下されたという。

 このあたりの議論はまた別途書きます。