人間とテクノロジー

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デマ対策と報道

 報道機関が、これまでになくデマ対策に力を入れている、ように見える。新型コロナワクチンデマの話だ。

 フェイクニュースもデマもいつの時代もある。ネットが普及し、SNSが浸透するに従い、その影響力は力を増し、特に2016年の米大統領選やブリグジットではその弊害が問題視された。「フィルターバブル」「エコーチェンバー」といった、フェイクニュースやデマのメカニズムに関連する用語も人口に膾炙した。

 一方で、報道機関によるフェイクニュースやデマ対策のための腰は重かった、ように見えた。NPOやアカデミアなど、非営利で非報道機関の声や一部対策は散見されたが、報道機関が積極的にフェイクニュースやデマに対策を打って出ることはあまりなかった。毎日新聞やバズフィードがFIJと協働してファクトチェックをやっていたが、それほど大きな影響があるとは見えなかった。

 一転したのが、新型コロナ禍の状況だ。

 新型コロナ禍から平常化への切り札とされるワクチンだが、接種率が上がらなければ効果は十分ではない。民主主義国家ではワクチン接種が個人の選択に任される以上、打たない人は一定割合で出てくるが、その意思決定がデマによるものであるならば、それは対策の対象となる。

 ワクチン接種が先行した欧米でデマによってワクチン接種をしない人たちが結構いてそのために接種率が十分に上がらない現状がある。

 こうした現状を踏まえて、ワクチン担当の河野太郎大臣ら政府関係者や政府機関が積極的かつ具体的にデマを否定する発言を、各メディアやSNS等で発信するようになった。もちろん、医療従事者をはじめとする個人や非営利活動として、デマを否定する情報発信はずっとあった。

 それらの動きを受けて(それらを報道するという体で)、報道機関が積極的にデマを否定する報道をするようになった。

 昨日は日経朝刊の一面企画、NHKの22時から約1時間の番組で、ワクチンを巡るデマを取り上げた報道があったいずれも、丁寧な取材をはじめとした結構リソースをかけた、力の入った報道だったと思う。(そもそも、フェイクニュースやデマといった複雑でネガティブな内容を報道する際には、力を入れて丁寧に進めざるを得ない)

 少し前から情報摂取を適切にするという話をしている。当初「データジャーナリズム」と言われ違和感があったが、その文脈も含むのだと思う。データジャーナリズムや適切な情報摂取はここ10年以上興味のある分野で、力不足ながら、勉強したり取材記事としてかかわったりしたことはあった。一方で、なかなか大きな流れにならないことにももやもやしていた。ここにきて、流れが明らかに変わったと思う。変わりつつあると思う。コロナ禍とワクチンを巡るデマの問題の大きさを契機に、前へ進めるんじゃないかと考えている。問題は、具体的にどうするか。